13.

は、と私はゆるく息を漏らした。電車の揺れとぎゅうぎゅう詰めの車内。だが私が嫌悪感を示しているのはそれではなく背後から私の足を気持ち悪く撫でてくる手。
タイツ越しだから最初は気にならないふりをしていたがどんどん上へとあがってきた手を私は無視することが出来なかった。

「ひっ、」

鼠蹊部を気持ち悪く撫でられ変な声が出た。なんで、嫌。気持ち悪い。

「何をしてるんだ?!!」

後ろで誰かが声をあげ、手を掴まれ抑えられた男。振り返るとうすら禿げで醜い顔をした男。こんなのにいいようにされていたかと思うと私は羞恥心でへたりこんだ。

車掌室の奥に連れていかれ、親や先生など信頼できる大人に迎えにきてもらうように言われる。
私は電話するあてがなく、しぶしぶと意図的に電話帳の最後に置いた名前に電話をかけた。




「名前…!!!」
「ごめんなさい、連絡できる人、いなくて。」

エルヴィンさんは硬い顔をして私に近寄るとぎゅうと私を抱きしめた。

「…い、痛っ、えるびんさ?!」

「心配した、」

無事とはいえないが、よかった。私を呼んでくれてありがとう、そう言ったエルヴィンさんに紅潮してた頬の熱は目元へ移った。
どうしよ、ここ、車掌さんも来るかもだし、と身じろぎするとエルヴィンさんがゆるく腕を解く。

「もう話はつけてある。帰ろう、名前」

えっ学校。呟くと、行かなくていい、と素っ気なく言われた。床に投げ捨てるように置かれていた。私の鞄を持ち歩き出す彼に手を引かれ私は駅を出た。
乗って、といわれたのは駅前に駐車された銀色の車。

「アストンマーティン…」

急かされるようにしてその高級車に乗り込む。シートベルトを締めると静かに車が発進した。

「…名前、君の家へ送ろう、」

「…あの、エルヴィンさん、」

帰りたくないんです。そう私が言うと彼は何も言わずに車をUターンさせた。

「行きたいところがあるんだが…いいかな、」

私は何も言わずに頷いてヘッドレストに頭を乗せた。
心地の良い揺れに目を瞑るとゆるゆると浸食されるように私は夢へとおちていった。