12.

「最近、名前かわいい」

次の国語の授業の単語調べをやっていたら机の前に友達が来て唐突に言われる。

「カラコンならしてるけど、」
「それじゃないってばー」

机に肘をついて下から私を見上げるようにまじまじと私を観察する彼女の視線が気になって私は再びノートに目を落とした。

「あっ!わかった好きな人出来たんでしょ!」
「はっ?!」

ぼとり、と持っていた赤ペンが落ちる。あっ、ビンゴ?!ビンゴ?!なんてはしゃぐ友達が憎たらしい。

「誰??誰??この学校」
「っもういいでしょ!あんたの知らない人っ!この話は終わり!」

高校生で大学生と付き合うのでも年が離れてる、とかすごいね、とか言われてるのに何歳かとか知らないけれど、社会人、それも結構年がいってそう、なんて話しただけで引かれるのは分かっていた。




テストが直前になるとどうも気が入らない。家に帰る気もしなくなって図書館を閉館時間で追い出された後もカフェに籠って単語帳をめくる。知らなかったところに透明の付箋を貼って、もう一度見直せるように。すでに付箋が貼ってあって覚えたところは剥がして。
温かいラテをもう一杯買いにカウンターに行って戻ってくると私の座っていたテーブルの向かい側に知らない人が座っていた。

「えっ、と」

そこは私の座っていたところです、といったらいいかしかし鞄も参考書も置いてあるし私が座っていたことは明らかである。相席希望…、にしては他の席は空いてるし。
困惑しつつゆっくり席に戻ると茶色の髪を大雑把にまとめた女性。

「やあ、君が名前だね??」「えっと…どなたですか」

警戒心を隠さずに言った私に気を悪くした様子もなく彼女はあっはは、と豪快に笑って手を差し伸べた。

「私はハンジ・ゾエ。エルヴィンの部下でね、君の名前を聞いていたからそこの参考書の名前に反応してしまってさー」

しかも歩いてきた君がエルヴィンの言っていた通り以上に可愛かったからさ!なんて大きな声で言われて私は赤面した。

「あのエルヴィンさんと私の話なんてするんですか?」
「まーったく帰りに会ったとかなんだか逐一話してくるんだよー?おっと、これ私が言ったのは内緒ね!」

はい、なんて答える自分がにこにことしているのが不思議だった。温かいラテを啜っていると「で、名前はエルヴィンが好きなの?」とかいうから私は思わず吹き出しそうになった。

「な、な、なん、で」
「私、勘だけはよく当たるってね!」

ははは、とまた笑うハンジさんとは対に私は膝に目を落とした。
好き、かもしれない、とか思ったのはついこの間だし、高校生がこんな幼い恋心をなにも社会人に向けるなんて、と思われるかもしれない。自分の小さな恋心を肯定することを私はまだ出来ずにいた。

「エルヴィンはいい奴だよ」

誠実だし、頭はいいし、優しいしね。柔らかく笑いながらもなんだか悲しそうな顔をするハンジさんに私はどう返したらいいのか分からずゆっくりと頷いた。
(エルヴィン、やっぱり君らは何も変わらない、変わってないんだよ)