期末試験後の誰もいない図書館。それはそうだ皆今日に向けて必死で勉強してきてようやく終わったのだから。さすがに今日勉強しようとする者は稀だろう。

「なにしているの」

闇の魔術の副作用で醜い容貌となった男の写真にぱさりと長く艶のある黒い髪が一房落ちてきた。
顔をあげると予想通りの青いネクタイをきちんと締めた少女。
彼女は目を細めて開いてあるページを目で追った。
落ちてきた髪の間から顔を出す醜い男には目もやらずに。

「興味深い本ね」
「ああ実に面白いよ」

彼女は呟くように、黒魔術の栄枯盛衰と言った。それはいま僕の目の前に開かれている本だった。

「よく知ってるね」
「昨年読んだの」

レイブンクローに選ばれただけある。彼女の知識欲は半端ではなかった。
初めて会ったのは監督生のコンパートメント。自信に満ちあふれた生徒が多い中静かに座る彼女が印象的だったのは覚えている。
彼女は顔をあげて僕を見据えた。髪と同じ漆黒の目が僕を捉える。


「トム、あなたのやろうとしてることは知ってるわ」
「それはよかった」

なにが、と彼女が言おうとした瞬間に僕は彼女の唇を掠めるように奪った。

「あなたがわからない、」

彼女は一瞬の接吻に動揺した様子もなく睨みつけた。いつもと変わらない彼女の様子に自然と口が弧の形に緩む。

「君が欲しい」
「あなたが欲しいのは私の知識でしょう?」

彼女は少しだけ声を荒げた。静かな図書館ではその声さえも響く。
さらり、と流れる髪を手にとって口づけると彼女はぴくりと反応した。
いつもの冷静な彼女とは違う態度がなんとも面白い。

「違うといったら」
「離して、トム、」

ばさり、渇いた音がして本が床へ落ちた。
彼女は僕から目を離して落ちた本を眺めた。革の表紙には面白いことなど何も書かれていないのに。

「私は闇の魔術なんて使わない」
「いいよ」

「私はあなたに加担したり出来ない」
「それでもいい」

「私はあなたたちのしてることを見逃せない」
「名前、僕が君にそんなことを望んでいると?」

何も言えなくなった彼女は泣きそうな顔をしながら震えた。
監督生のコンパートメントで出会い、スラグホーンのクラブで再開して約一年。ようやく捕らえた少女は真っ青な顔をしながら僕の抱擁をただ突っ立って受け止めた。


紅い誘惑






なにがしたかったのかはよくわからない。
とりあえず衝動的に書きたくなったトム。
このトムは愛を知りながらヴォル様になるのかな、ただ愛に溢れ甘ったるいトムも書いてみたいのだけど