静かな部屋にゴポゴポとコーヒーの沸く音。
こっくりとしたチョコレート色のマグにできあがった湯気のたっている液体をいれて両手でつつむと手の平がじん、とした。

ぴんぽん、と来訪者を伝える無機質な音。
時計を見上げると既に22時をまわっていた。


「名前どーしたのこんな遅くに」

外にでるともう微かに息が白くなるほど寒いのに上着も着ないで立っていたのは同僚であり同じ執行官の名字名前。

「縢、入っていい?」
「いいけど」

昔からよくゲームするだの飯食わせろだの今日は呑みだの部屋にくることは度々あったがそんな雰囲気ではない。


「疲れちゃった、」
ほんとうにこの世には失望した、そんな声色で彼女は言った。
俺はコーヒーをもう一杯彼女に入れようとピカピカに磨かれた無機質なシステムキッチンの前に立つ。

「また殺しちゃったの」

恋人がおかしくなっちゃったのにずっと一緒にいてそれでサイコハザード起こしちゃったみたい。
最期は恋人とぐしゃぐしゃのどろどろになっちゃったの、でもそれでも幸せそうだったの、なにがおかしいのかな。
彼女はまるで楽しい話をするかのように話したあと息を詰まらせ嗚咽を漏らした。
俺の腰に小さな子供のように抱き着いてるせいでどんな顔をしているかはわからない。

「お前、あんま考えすぎんなよ、色相濁る」

腕がゆるんだ瞬間に体をまわして彼女に向き合う。

「もう遅いけどね、」

先程は気づかなかったが目のまわりが真っ赤に腫れている。冷蔵庫から冷却剤をとりだしておしつけると彼女は驚いたようなむくれたような微妙な顔をした。

「好きになったら駄目だよね、死ぬの怖くなったら公安で働けない」

正面から縋るように抱き着かれたままこんなことを言われたら誰だって期待する。

「そんなこといったって俺らだって・・・"にんげん"なわけよ?」

顎を持ち上げて口づけると彼女はくすぐったそうな顔を赤く染めた。

咎まみれのインマヌエル
(好きになっちゃ駄目なんて嘘。ほんとは君に認めて慰めて受け入れてほしかったの)