なんだか窮屈なものから解放されたような浮遊感。それを感じて立ち上がると明るくて清潔で広々とした開放的な空間にいることに気づいた。
高く輝くドームの下には椅子が置いてあってそこにはよく見知った少女が座っていた。
「トム。」
黒くのばした髪に鳶色の瞳。黒いローブの胸元には烏の青い紋章。
「名前・・・君はどうして・・・ 」
ふふ、と笑って立ち上がった彼女は僕の腕を掴んで隣に座らせた。彼女が生前愛していたハニーデュークスの大きなヌガー入りチョコレートの匂いがする。
「分霊箱から解放されたの、あなたの魂は。私ずっと待ってたの」
当たり前のように―まるでスラグホーン先生の試験でO・優をもらったと喜んだあの日のように―話す彼女を見てどうも目頭が熱くなり彼女を抱きしめた。
「君がいれば他には何もいらなかった。」
「私もよ、トム。」
全てが終わり全てが始まった日に彼女がまだ笑ってくれていたら。
気難しい顔をした彼女の力になれていたら。
もしスリザリンじゃなくレイブンクローだったら、
「トム、もうすぐ終わるよ。それにまた始まる。行こう?」
彼女が指差したものはホグワーツ特急のようにも見えた。彼女に手をひかれるまま歩いていったが乗車する一歩手前で足が止まった。
「トム?」
「僕はいけない。もうやり直せないんだ分かるだろう?」
彼女は一歩僕に近寄って両頬に手を添え僕の目が彼女を離さないようにそっと固定した。愁いを帯びたその瞳にどきりとする。
「トム、後ろを見ないで。先へ進もう?大丈夫だよ、私がいるから」
彼女は自然に僕を導きコンパーメントに座らせた。
「君と初めて会ったときと同じだ。」
すると彼女はいたずらっ子のように笑って手を差し伸べた。
「その危険そうな色の百味ビーンズ私にくれない?」「蛙チョコをくれるならね」
僕たちは手を取り合って微笑んだ。こんな暖かいきもちになるのは久しぶりだった。
電車が出発しても僕はもう振り返らなかった。