仙台市体育館の1コート。
私がマネージャーをしている青葉城西高校の試合は今日はもう終わり。
後は必ず決勝でまみえるであろう白鳥沢を偵察するため監督が岩泉と私、そして主将である及川を連れてきた。
白鳥沢の試合まではまだ何試合かあるからその前にそのブロックで闘っているチームを茫然と眺めていた。体育館内は熱気でものすごく暑い。


「岩泉、あと何試合?」
「次の次」
「じゃージュース買ってくる」


白熱した試合の熱気。先ほど暑いと脱ぎ捨てたジャージに隠れたエナメルから財布だけ出す。

「岩泉もなんか飲み物いる?」
「いいわさっき買ったし」

「あー名字、そろそろ及川探してきてくれ」

監督が呆れた顔して言う。全くいつも言われるのが私か岩泉だから嫌になる。
主将やめちゃえよ、馬鹿徹。





探すまでもなく徹は自動販売機のコーナーで女子に囲まれていた。
150円出して迷ったあげくオレンジジュースを買うと私はそのペットボトルを徹の後頭部へ投げつけた。クリーンヒット、のはずがさらり、と避ける徹にいらっとする。まあいつものことなんだけれど。

「あっぶないなあ〜何するの名前」

ぶつかったら大惨事デショ、と笑う彼。ああもうその笑い方さえもいらっとする。

「主将が一時間帰ってこなければ監督も岩泉も怒ると思いますけど?」

私は転がったオレンジジュースを拾い上げて(あー泡立ってるやだやだ)携帯を片手に徹と取り巻く女の子たちと冷ややかに睨みつける。
彼はため息をついて彼女たちににこやかに(むかつくほどにこやかに)手を振ると私の横を歩き始めた。




「名前、拗ねてるの?」
「うざい消えて」


彼は冷たいなーといいながらケラケラ笑うと私の右手にそっと指を絡めた。
ひんやりと冷たい手が暑い体育館の中で気持ちいい。気持ちいいとか思ってしまうのが悔しいけれど。
指を離さないでいる私に徹はにやりと笑って「名前だって男子の間じゃ烏野の美人メガネに続く美人って噂だし俺も拗ねちゃおーかな」

「別にあんたが拗ねてもどうもしないし」

徹はわざとらしく傷ついた顔をした後握った手をぐいと引っ張って一瞬触れただけだったが確かにキスをした。

「ば、馬鹿死ね及川恥を知れ!」

私は顔に熱が集まるのを感じてほとんど反射のように右手をはためかせた。







やさしい融解が水面でたゆたうような呪文をあげよう


(及川遅いぞー…頬どうした)(名字さんにキスしたら平手打ちされましたー)(及川お前もう帰れ)