シリウス・ブラックは何といっても私の唯一の気の置けない男友達で親友だった。
ジェリーと一緒に大広間に入ってきた私はいつも通り彼の目の前に座る。
「名前、お前なんか顔変じゃね?」
ベーコンを口に入れながらあいさつもなしにいきなり問われる。何故ジェリーも気付かなかったことにこいつは気付くんだろう。
「別れた」「あー」
全く気にしていない様子でわりいと謝るシリウスが憎い。その反面気楽なんだけれども。
「お前、占い学遅れんぞ」
シリウスはもう立ち上がって私の教科書のつまった鞄を持っている。
「ちょっとは待ってよねー」
私はあと一口スクランブルエッグを掬い次はルーン文字学なジェリーに別れを告げた。
「あれ、ポッターたちは一緒じゃないの?」「お前が遅いから先行かれた」
むすっと答えるシリウス。あたしのせいにするなぼけ。そんなシリウスのもとに年下だろうか、小柄で鷲色の髪をふわふわとさせた女の子が近づいてきた。
「あの、シリウス先輩、話があるんですけど」
そして私をちらり、と見る。その上目遣いさえも計算的だ。
「いいよここで。こいつ友達だから」
さらりというシリウスに彼女は困惑の色を見せた。
「あの、今度のホグズミート一緒に行きませんか…?」
「あ、ごめん、今度はジェームズと行くんだ。ごめんな」
そんな女の子の勇気を無下にするのはこんなやつか。彼女が残念そうに去った後機嫌が良さげな彼になんだかいらっときて私かばんをシリウスにぶつけた(いってえ)
「ブラックくん、シリウスさん。解毒剤云々の前にどうしたらこれが何かわかるんです?」
寮のシリウスのベッドで横になりながらレポートにペンを走らせる。インクこぼすなよって言われたけど、これこないだホグズミートで買った『ベッドで宿題は余裕!』て売り文句のシーツにこぼれないすっごいインクなのだ。返事をせずにポッターと爆発スナップで遊んでいるシリウス。
私がむくれたような顔をすると隣のベッドに座ってチョコをかじりながら観戦していたルーピンが「シリウス、彼女が呼んでるけど」と声をかけてくれる。さすが。優しい。監督生様。なんだよ、とぶつくさ言いながらもこっちへ来るシリウスが薬草の名をつらつらと並べる。は?ハナハッカなんてなんでいれんの。そう思いながらも羊皮紙の端に書き込んだ。最後に変わった色によって成分が大分判別できるらしい。
「ありがと助かった」
メモを終え顔をあげると部屋にいて騒いでいたポッターとかがいなくなっている。
「皆どこ行ったの?」
「トイレじゃねえ?」
シリウスはそう言いながら羊皮紙を私の腕から奪って机へと投げた。意味が分からないその動きに私がぽかんとしていると何だか嫌な笑みを浮かべるシリウス。
「お前、別れたんだよな」
その言葉の意味も分からずはあ?と声が出るとシリウスの漆黒の髪が目の前にあって柔らかいものが触れていた。
「…っ…?」
意味も分からず息も苦しくて離れようとするけど後頭部にある手のせいで動けない。もう片方のシリウスの手は私の背中を撫でていてぞくぞくとする。
「は、ぁ…んっ、…」
気持ちいいとか思ってしまう自分が憎い。こんな愛おしそうなキスをされるのは久しぶりで沼の深みにはまってしまったようなそんな感覚がした。意識が朦朧としてきた時はじまりと同じように突然シリウスの唇が離れた。彼の息も少し上がっている。耳が赤らんでいるのが分かった。
「お前、俺と付き合えよ。」
いきなり彼との関係と世界が変わるのを予期して私はゆっくりと頷いた。
その瞬間にやにや笑いながら部屋に入ってきたポッターたちに絶叫したのは言うまでもない。
色彩の世界で抱きしめて