この世界は希薄だ。
槙島聖護は考える。
機械的、合理的になった世の中は誰もがシステムに見守られることに安心感を覚えている。
この社会に孤独でない人間など誰もいない。
誰だって孤独で誰だって虚ろだ。
他人を必要とする世の中などとうの昔に終わってしまった。
誰も他人を必要とする人間はおらず、どんな才能にもスペアが見つかる。
どれだけ恋慕していようともその関係にも取り換えが効く。

この世の中は希薄だ、そう思っていた。





「んっ・・・ま・・・きし、まさっ・・・やっ」

乱れた白いシーツに対になるように黒いベロア調のワンピースを着た華奢な少女。
いや着た、というのには語弊があるかもしれない。
ワンピースのストラップは肩から抜けてしまっていてその肩口には冷たい唇と熱い舌が這っている。

「名前で呼んでくれないのかい名前」そう言って微笑む真っ白な愛しい彼。
耳元で囁かれ、体はぴくりとして背中が少し浮きあがった。
その様子に槙島は慈しむような微笑みを浮かべながら彼女の唇にキスを落とした。

「ふっ・・・・んんっ・・・」

軽く啄むようなキスにも顔を真っ赤にして応える彼女がなんとも愛おしい。

「聖護・・・?」

うるんだ瞳にもそっとキスを落とすと彼女はくすぐったそうに笑った。

「すき。」
「言わないで、」

抱き締めると最後まで事に及ぶと思っていたのだろう彼女は少し驚いたかのように息をつめた。
その吐息さえも愛おしくて強く抱きしめた。
彼女がどこへも行かないように。彼女が何者ともすり替わることのないように。


「私はずっと一緒にいるよ、聖護。」

恋慕する相手さえも取り換えが効くといったのはいつの自分だったのだろう。
いまとなってはもう彼女を愛していない自分は想像つかなかった。




愛くるしい夢の底で