風がそよそよと吹く。目を閉じて息を吸うとほのかに秋の香りがする気がした。
ここは桜霜学園の屋上。転落防止のためにつけられた柵を飛び越えあと一歩足を進めればすべてが終わる。

「どうして君は死のうとするんだい?」
「つまらないから…ですかね、」

白い髪をなびかせて何事もないように入ってくるのは槙島先生。やはりこの男は何か違う。だって私が鍵を職員室から借りて持っているのだから他の人が入ってこれるわけないのだ。

「君は聡明だ。そこで死んでしまうのはあまりにも惜しい。」
「ああ、この穢れに穢れた肉体が溶けて崩れて露になってしまえばいいものを。ああ、神が自殺を禁じる掟など定めなければよかったものを。ああ神よ!神よ!なんと退屈、陳腐、単調、無益に見えることか、この世の営み全ては!」

槙島先生の唇が弧の字を描く。この世はつまらない。
勘が強すぎるのだ私は。勉強はちょっとやれば首席がとれたし運動だって勘さえつかめば難しくない。この世界はあまりにも完璧に見えすぎる。きっと私はシビュラが出来る前の世界に生まれた方がよかった。自分で不確かな未来を掴むだなんてぞくぞくする。


「シビュラに左右されない世界は素敵だと思うんです。判定されない、されることのない人と付き合ったり―…」
「咲くには早いがすぐ凋む。匂いがいいがすぐ消える。束の間のはかない香り、一時の慰めにすぎん―じゃなかったかな。」

ハムレットをハムレットで返すとは。そう睨んだ私の足を風がさらった。バランスを崩した私の体は校庭へゆっくりと落ちていったがある角度で止まる。

「面白いものを見せてあげよう」

槙島先生は細く白いその腕一本で私を引っ張っていた。

「面白くなかったら?」

彼は軽々と私を引き上げて私の首にどこから出したのだろう折りたたみ式の剃刀を当てた。ひんやりとするその感覚と熱。肌の火傷したような痛みにああ、切れたな、と思った。

「殺してあげるよ」



シネマティック・キラーボーイ




槙島のキザってこんなかんじかなって。そしてこういう話の常套句しか言ってない。