「志恩!」
厚生省公安局総合分析室に息を切らして入ってきたのは色素の薄いくるくるとした髪をゆらした小柄な女性。
「工部局のドミネーター実験は終わったの〜?」
「終わんないわよ!48時間の休みをもぎ取ってきたの。」
彼女は部屋の隅においてあった紙袋からやわらかい素材のブラウスとフレアスカートを取り出して身にまとった。
「慎也が撃たれたって聞いたんだけど。」
志恩は大きなスクリーンから振り返って情報が早いわね、と呟いた。彼女はブラウスの上にカーディガンをはおると立ち上がった。
「あらかた征陸さんとかがやり口が気に入らなかったら撃てだのなんだの言ったんでしょ。」
いらいらとした口調で分析室を出た名前はパンプスの音を響かせて治療室へ向かった。
「慎也、何やってんのよ」
真っ白な壁に真っ白なタイルに白いシーツ。そこに寝ている慎也はちょうど目を覚ましたとこだと伝えられ一係だと言えば中に入れてもらえた。
たいして外傷はないのに何故か痛々しく感じる。
「ドミネーターの実験終わったのか」
「終わんないから休みもぎ取ってきたわよ。」
甘える胸板に頬を寄せると引き寄せられたキスをされた。
「現在、工部局でのドミネーターの新機能開発に携わってて不在していたハウンドfive、名字名前です。」
「あ、先日新任した常守朱です」
少し頼りなさげな女の子らしい女の子。こんな子が慎也を撃ったなんて。
「あのっ…私…」
私の素性については征陸さんさんだか誰かが話したのだろう。
常守監視官が急に申し訳なさそうな顔をする。
なんでそんな顔するの撃ったくせに、やり口が気に入らないからとかいって初日からそんなことするなんてもっとしゃきっとしなさいよ慎也に後遺症でも残ったらどうしてくれるのよ。
そんな醜い感情が口を出る前にいつも通りスーツを着た慎也が私を後ろに引きよせて「心配させて悪い」と耳元で呟いた。
私のドロドロと凝り固まった感情がさらさらと溶けていって私ははあ、とため息をついた。
「見せつけてくれますねえ名前さん」にやにやと茶化す縢。くっそあとで覚えてろ。
ヘラの凶気
たぶん私がヒロインだったら朱ちゃんにすごいいらいらすると思うんだ。
でも視聴者側からすると朱ちゃんにすごい自己投影しちゃうんだ。