タブレットには「相沢 真」と書かれその下には今いる場所の住所が書かれている。
目の前の扉には"相沢"の表札。ピーンポーン、無機質に鳴り響くチャイム。
人がよさそうな小太りの女性がドアを開けて不思議そうな表情を浮かべる。
その瞬間私は左手に隠し持っていたナイフを振りかざした。

赤、赤、真っ赤。人一人に血液はこんなにも入ってるのだ。
漠然とそんな事を考えていたが、頬が濡れていることに気付いた。
部屋の真ん中で倒れている彼女の血ではなく透明なもので。
この間槙島さんから借りた本の一節を思い出す。私が祈るとしたら罪に落ちた私は救われるように祈るのだろう。ハムレットだったっけ?
ああ、こんな時まで槙島さんは私の心の中を乱すのだ。

「名前。」「槙島さん…」
なんだか楽しげな笑みを浮かべた彼は部屋とは正反対に真っ白。
「泣いているの?」彼は私の頬に人差し指を当ててその塩辛い液体をぺろりと舐めた。
白い指先に赤い舌のコントラストがなんともなまめかしい。
彼はその白い指先で私のスカートのポケットから端末を取り出して私の色相をみた。

「朝より澄んでいるよ」「やっぱり、」
朝は赤に近かった私のサイコパスは今ではシェルピンク。
いつのことかおかしくなった私のサイコパス。私を助けてくれたのはまぎれもない槙島さんだった。

「帰ろうか、名前。」
彼がそういって手を伸ばしてくれる限り私はどんなことをしてもその手をにぎるのだろう。


善と悪の合いの子