獄卒なんてものをしていると暗い学校に廃病院に廃ビル。いわくつきの旅館にトンネルとかホラースポットと思われるものに行くことなんて日常茶飯事だし怖くなんて全くない。
女として大切なものをどんどん失っている気がする。
今日は木舌と二人だったのだけれどもどこかではぐれてしまった。悪さをしていた亡者を捕まえてその時に彼が持っていた緑色の目玉に嫌な予感がして拾うと手のひらでころころと転がせる。エメラルドやジェダイトのような深い緑色。白目との対称がすごく綺麗。
こつこつと廊下に響き渡るブーツの音。立ち止っても向こう側から似た材質の音。
「木舌!」「ああ、よかった名前」
片目から血を流した木舌が向こう側から歩いてくる。
亡者は?もう捕まえたよ。なにやってんのばか。いやなんかデジャヴだなあ。お酒飲んできたでしょ。
なんて話していると木舌が手を差し出す。
「ん?」
「目玉、ありがとう。」
そりゃあ見つかっていればすぐに嵌めたいだろう。新しく作るのは大変だけど取れたものをくっつけるのはすぐだし。
私はころころと手のひらで目玉を転がすといいことを思いついてにこりと笑った。
我ながら言い笑みをしていたと思う。
「ねぇ、それ私に嵌めさせてよ」
「別にいいけど…」
じゃあ立ったままだと安定しないから座って。と木舌を座らせて座高が高い。ってか身長も身長だし高いのは当然なんだけど。木舌を座らせて自分は立ち膝になる。
目を瞑った木舌が睫毛が長くて、肌は白くてすごく綺麗だったからいたずらがしたくなって私は空洞の右眼の瞼をはむ、と噛んだ。ちょっと、と木舌は左目を開けたが動じない。
眼球のない瞼だけは柔らかくて気持ちがいい。カニバリズムの気はないんだけどなあ。
「ふふ、おいしい」
「満足した?」
呆れたように言う木舌に頷くと、彼は左目を細めるようにして私の唇に噛みついた。
とはいっても噛みつくようなのは勢いだけでとても優しい。
ちゅ、と触れて吸い付くようなキスを二、三度落として下で唇をぺろり、と舐めあげると口内へと入ってくる。上顎を舐められびくり、と体が揺れると右腕でそっと抱き寄せられた。
舌が絡め合うのがすごく気持ちいい。けど息苦しい。ああ、もうこのまま窒息死してもいいんだけれども。
「ん、っ…名前…」
ちゅ、とまた最後に唇にキスが落とされて離れる。木舌はすごくロマンチックなキスをするといつも思う。
「ほら、嵌めて」「うん、はい、」「ありがとう。」
ぐちゅり、と眼球をねじ込み確かめるように何度が瞬きをする木舌は微笑むと立ち上がって私の手を握った。
私も立ち上がると膝立ちしていたせいで痛い膝頭に顔を歪めた。
「大丈夫?帰ろうか。」
「うん、大丈夫。」
帰ったら肋角さんに報告しないと。この馬鹿また目を落としましたって。
ちろり、と見上げると綺麗なグリーン。まあ、でも確かに取りたくなるのも分かるかもしれない。
こっそりと、見ているつもりだったのに急にこちらに視線がきてびっくりした。
木舌はそんな私ににこりと笑うと耳元で囁くのだった。
「報告終わったらさ、後で部屋来てね。……名前。」
シャンデリア墜落死