出会った瞬間、自分が変わる予感がした。
なんて言ったらベタすぎるだろうか。陳腐な恋愛小説のようだろうか。

白くてきれいな肌が好きとか彼が言ったから初めてデパートの地下の化粧品屋でスキンケア一式買い揃えてみたし、男受けno.1とか謳った口紅を買ってみた。
合わせやすさで暗い色ばかりになってしまっていた私服に明るい色を取り入れるようにしてみたり。


久しぶりに彼に会えることになって普段は重くてしないイヤリングをしてみた。
耳が痛くなる予感はしたのだけれどもそんなことが気にならないくらいうれしくて弾むような気分だった。
「ひさしぶり」「なかなか会えなくて悪かったね、」
いいの、行こう。普段はそのまま繋がれる手が私の髪を掠める。
名前、綺麗だ。と言われて頬が熱くなった。
「そういうの、外で言わないでよ、エルヴィン。」
「はは、すまないね、…行こうか。」
握られた手を見て自然とゆるんでしまう頬を必死で隠しながら私たちは駅から目当ての店へと歩き出した。

何にしよう。後輩から聞いたパスタが美味しいお店に行こうと前から約束していたのだけれどもジェノベーゼも気になるし無難にミートソースも美味しそう。
うーん、迷う。
「きめられないエルヴィンちょっと待って〜」
「どれで迷ってるんだ?」
「ジェノベーゼとミートソース」
「じゃあそれにしよう」
え???と頭の上にハテナを浮かべる私はよっぽどおかしかったのだろうか、ふふ、と笑ってエルヴィンは注文をしてから半分私にくれるかい?と聞いた。
なんかもうその優しさにきゅん、と高鳴ってしまう胸が痛い。
ああ、もう好き、なんでこんなに私は幸せ者なんだろう。


ちょっとだけだけど飲んだサングリアで少しだけ顔が熱い。
お店は私の最寄り駅のすぐそばだったため帰るのがあっという間だ。
友達と行くなら楽でよかったけど寂しいな、と思ってしまう私がいた。
明日だって私もエルヴィンも仕事があるんだから早く寝なければいけないのだけれども。

ぶらぶらくだらないことを話して笑っている間に私のマンションへついてしまう。
「パスタ屋の照明できらきらしていて綺麗だったよ」
名残惜しくて立ち止っているとエルヴィンがふと言った。
え?と聞き返すと彼の指がそっとわたしの耳元に触れる。わたしはなんだか動揺して友達が誕生日にくれてどうのこうのとか訳が分からないことを言ってしまった。
…本当は自分で買ったものなのに。
きっとそんな私に気付いたのだろう彼はくすくすと笑った。
「今度は私に名前に似合うものを選ばせてほしいな」
「えっ…あの、その、嬉しい…です。」
にっこり笑ったエルヴィンはそっと私に唇を落とすと手を離した。

「おやすみ、名前」
「うん、おやすみなさい」

手を振って私はエレベーターに乗り込んだ。
住んでる階のボタンを押して到着すると手すりからエルヴィンのロングコートを着た背中を見送る。
見えなくなると鍵を開けて私はたまらない気持をおさえるようにベッドへ潜り込んだ。







ある幸福な一日