厳しいと評判の専務、エルヴィン・スミスにまだ大学生の妻がいるというのは周知の事実である。普段決して顔を崩すことない彼が妻の事を語る時だけは顔を緩ませるのだから。
休日の六本木で仲良く手を繋いで歩く二人を見た社員がいたとかいないとか。

「まーさっか若いだけじゃなくこんな素敵なおつまみこしらえちゃう良妻とはねーっ!」
顔を赤くしてひゃっくりあげるハンジ、にその隣に座りちまちまと彼女のグラスに水を足しているのがミケ。そして部屋の隅に座り平然と瓶を開けているのがリヴァイ。
とそこまでは内輪での穏やかな飲み会であった…が。

「やっべ!やっべこのカナッペうめえ!エルヴィンさんの奥さんほんとはんぱないっす!!!!」
「ほんと〜?若い子のおつまみって初めてつくるから緊張しちゃったんだけどよかった。」

ゆるりとしたニットに短いデニムを履いてにこにこと笑うのが名前。いつもは会社が遅く終わるたびに少し拗ねるのに今日は「いい会社だねー」なんて笑うものだから全く女というのは不思議だ。
短いデニムと部屋用の長いソックスの間から覗く肌色が艶めかしい。ああ、酔っているのだろうか。12時をまわった時計を見て名前はあっ、と声を上げた。

「ごめんなさい、私明日朝はやくから学校だから寝ますね!」

おやすみなさい、と笑ってひとりひとりに挨拶する。ハンジはえ〜寝ちゃうの〜おんなのこいないとつまんなあ〜いなんて駄々こねる。えへへまた今度お茶でも飲みにいきましょ!なんて名前は言ってぱたぱたとスリッパを鳴らして駆けていく。
ああ、かわいいなあなんて頬を抑えるとリヴァイがじろりとこっちを見た。

「あの有名なエルヴィン・スミスがざまねえな」
「家庭というのは癒される空間であるもの、それこそが理想だろう?」

頬が緩んでいるのは自分でもわかっている。リヴァイが呆れたようにまた一杯煽ると私は彼のグラスに注ぎ足したのだった。

もともと酔っていたハンジが正体をなくしミケが横になった頃。真っ赤な顔したリヴァイと妙に空元気なエレンが残り私もちびちびとグラスを口元に運んだ。

「お風呂入ってたら遅くなっちゃった…ごめんね、待ってた?あら、」

みんな、つぶれちゃってる…、お風呂から楽しそうな声聞こえてたよ〜?けらけら笑う彼女はこの間二人でショッピングモールへ行った時に買ったモコモコとした素材のワンピースを着ている。やはり名前は柔らかい色が似あうな、なんて自分の見立てに狂いがなかったと心の中でほくそ笑む。

その足元で顔を赤くしたエレンがううんと唸って寝返りを打った。あーあ、名前は笑っって寝苦しそうな彼のシャツの首元を緩めた。その瞬間なんだか胸がざわつく。
いまのエレンからなら彼女のワンピースの中身が見えてしまっているのではないか。
今だって彼の足元にしゃがみこむ彼女のむっちりとした太腿とその間が見えているのでは。
急に彼の閉じられた瞼が偽物であるように感じてクールダウンしていた体がアルコールとはまた違う熱を持ち始める。

「きゃっ?!」

彼女が床から拾い上げたプラスチックのコップから氷がこぼれ上半身のジャージを濡らす。
急に腕を掴まれて困惑した彼女をリビングの向かいの扉、寝室に連れこむとそのまま彼女をベッドへと投げた。彼女の体がスプリングで跳ねると一瞬のぞく桃色のそれ。
濡れたジャージを脱ぎ捨てて彼女に覆いかぶさると彼女が手のひらで胸元を押し返し拒絶の声を漏らした。

「あ、明日学校だし…っそれに皆いるしそのっ…ぎゃ、だめだってばっ…」

明日私が責任をもって起こそう。そうささやくと彼女は抵抗をやめてぎゅっ、と目を瞑った。
ゆるゆると脱力する体を優しく撫でると名前は息を漏らす。
寝室につけた防音壁に感謝したのは今日がはじめてだった。








僕の理性が喘ぐ