わいわいがやがやとうるさい夕食時。
薄暗い食堂に数少ない女子のきゃいきゃいとした声が響く。
「エルヴィン団長ってほんとかっこよくない?」
「紳士だし背も高いし理想の男性像だよね〜」
「壁外調査前の鬼のような顔も素敵〜〜〜」

壁を出たら誰もが男女関係なく巨人と死を賭して戦うというのにこうやって女性としての本能は忘れないのだから全くおかしい。いや死を賭しているからこそ本能が生殖しろと言ってるのかもしれないが。
スープの入ったマグを片手にうっとりとした表情の同期を前にして名前ははあ、とため息をついた。
「え、団長とかただのヅラじゃん。」
じろり、と睨まれるが巨人と目が合うより怖いわけがない。そう言われてみれば調査兵団の古株たちは壁の中では無敵なのかもしれない、…と話はそれたが。
「団長よりもっといい人いるでしょリヴァイ兵長とかミケさんとかさ、」
兵長は巨人を1人で何匹も瞬殺してしまう人類最強だし、冷徹ですぐに乱暴をする厳しい鬼畜に見えるけどでも、本当は仲間思いで巨人の駆逐の為に死んでいった仲間の思いを背負いながら圧倒的な強さで巨人を駆逐してる。潔癖症で兵長という立場もなしで汚いところは自分自身できれいにするところもすごくいい。なんかカリスマ性がある。ほらもう兵長の魅力語りすぎちゃった。皆も団長なんてやめなよ。エルヴィン団長なんてほんとただのヅラ。

と目を開けたところで呆れたように首を振りながら友人たちががちゃがちゃと食器を鳴らしながら片しているのが目に入り私は慌てて追いかけた。

はあ。手元にある一枚の書類をぺらりと振って私はため息をついた。すべて書類を出したあとに気付いた残りの一枚。本来なら皆でまとめて出すところを直接あのエルヴィン団長に出さないといけないとか。ああ、面倒くさい。
書類を持て余したようにひらひら振りながら廊下を歩くと兵服の黒いブーツがこつこつと鳴る。こんこん、と扉を叩くと私は何も言わず中へ入った。

カリカリとペンの音。背筋を正し綺麗なフォームで机へと向かうのがこちらを向く。
西日にサファイアの瞳がキラキラと輝いた。
「これ、あの、すいませんでした」「ああ、待ってたよ」
わざわざ机から立ち上がり彼が私のつまんだ紙を受け取ろうとする。彼がしっかりとつかむ前に紙を離してしまってはらりと床に書類は落ちた。あ、と声に鳴らない声が出て顔をあげると目の前にあった緑色のループタイにぶつかりそうになって体を引いた。
すると腰に支えるように当てられた手に気付く。
「なにしてるんですか」「反応が薄いな、」
面白くないとでも言いたそうな顔をして彼は当てていただけだった腰の手を緩く動かした。
ぞわり、と背中が跳ねてあの感覚に目を細めると唇に柔らかいものが触れた。
団長にキス、されているとか。訳が分からない。
反射でエルヴィン団長の胸板を押し返し腰の手から逃れようとするがびくともしない。
同じような訓練兵時代を過ごして、そして同じように調査兵団にいるというのに男と女でこれほど力の差があるというのか。
「ん…は、…だん、ちょっ…ぅん」
舌に煽られ変な声が出た。堅物だとばかり思っていた彼のキスは巧くて目の端に涙が溜まった。人前で泣いたことなんてないのに、ああ、もう、嫌だ。
緩く抱きしめられた腕が離されると腰から力が抜けて崩れ落ちそうになった。
これだけのことで腰に力が入らなくなるなんて。頬がもっと熱くなった。

「名前、」「やっ、もうなにするんですか団長、私はっ…」

腕を掴まれた立たされたもののまだふらふらとしている。足の裏にどうやって体重をかけるか忘れてしまった子供のようだ。団長の太い指が涙を掬う。

「君はリヴァイが好きなのかい?」

髪をかきあげられ耳元で囁かれると首のラインがびくびくとした。

「リヴァイへいちょ、はっ…憧れてますが、そんな、んじゃなくてっ…」
「よかった」
「は、?」
「それだけが気がかりだったんだ。」

気持ちが悪いくらいににっこりと笑った団長は力抜けた私の体を抱き上げて隣の部屋へと消えていった。

「リヴァイ兵長は憧れとは言ったけど団長が好きとも言ってないですから!!!!!」




それから。腰痛に悩み腰を揉みながら夕食を口にしていると食事の上に影が重なった。
ん、と見上げるとそこに立っているのは団長だった。
頬の筋肉が引き攣るのが分かる。
「はやく食べなさい、一緒に部屋に帰ろう」
「嫌です、」
「全く、照れるのもいい加減にしなさい」

駄目だこいつ話聞かねぇ。通路を歩く小柄な影に私は助けを求める。

「リヴァイさん!!!!!助けてください!!!!!」

彼は空のお盆を手にこちらを振り返るとじっと私を見つめる。
俺に助けを求めるな、そう言った彼の目は呆れたようななんとも言い難い顔をしていた。

「悪い子だ名前浮気かな?」

食べないようなら早く行こう。食器を片されて(まだ食べ終わってないのに!)無理矢理腕を引かれた私はまたエルヴィン団長の部屋に消えそして翌日腰を叩きながらその部屋から出てくる羽目になるのだった。







啼き叫ぶ




あとがき。
調査兵団の男女比ってどれくらいなんでしょう勝手に女子少ないことにしました。