お風呂から出たらいつもは絶対こんなの着ないよ、なんて思うようなふわふわでパステルカラーを着てベッドの側面にもたれるように座る。本棚に乱雑に置かれた本から適当なものをとりぱらぱらとめくる。先月、彼の誕生日に私がプレゼントした壁際の時計はカチカチなっていて。いつもよりも明らかに早い時間になんだか嬉しくなる。

「名前」

お風呂から出た彼は髪をぐしゃぐしゃと乱暴にタオルでかき混ぜている。いつもとは違うかきあげられた髪がセクシーだった、とか。もちろんもうお風呂上りなんて見慣れてるはずなのに。
じゃあ、ご飯作りましょうか、なんていって用意するものは下用意された肉でも魚でもない。
帰りがけにコンビニに寄り、買って帰ったカップラーメン。
かやくを入れてお湯を入れる。箸を錘のように置いて三分間待つ。ピピピ、とタイマーがなってじゅるじゅると吸って、そっちもおいしそう、ちょっとちょうだいなんて。
こんな安っぽいことで幸せを感じるなんてそのことこそが幸せで仕方がなかった。

「終わったよ、」「ごめんありがとう」

箸だけだったから気にしなくていい。洗い物をし終わりキッチンから手を拭いてこちらへ来るエルヴィンに微笑む。どかり、と大きな体をソファに埋めたエルヴィンは新聞をとり一面に目を通した。微かに触れる肩にどきどきとする。こんなの慣れてる、いつものことの、はずなのに。

「名前」「へっ」

急に声をかけられ驚いたような声があがった。それに彼はくく、と笑いちゅ、とキスを落とした。頬が緩んで、離れていくその顔を直視できなくなる。

「いつまでたっても慣れないな」

「慣れるわ、けな、でしょ…」

また彼は軽く笑って私をぎゅう、と抱きしめた。私はその熱い頬がはやく冷めるようにと願いながら彼の胸に顔を埋めた。

「…名前」

いつも呼ばれる私の名前。特にエルヴィンから呼ばれると他の人に呼ばれるのでは響きが違う、とはいつも思うのだが今日はなんだか違う。少しだけ固くて、緊張してるのかな、と思うような声だった。
だから私は無言で顔を上げる。やっぱりまだ頬は熱いままだけれども。

「ずっと考えていたんだ。」

私は頷いて先を促した。少し照れくさいように笑った彼は私が抱きしめた体勢のまま腰にまわしていた手をとる。抱きしめられているから感触しか感じない。それに私は光るような彼の目から目を離せなくなっていた。キスをされて、抱きしめられて火照った体、その指に冷たいものが触れて私はは、と気づいてしまった。

「結婚しよう、」

冷たいその感触に涙が零れてその言葉が頭の中で何度も反芻されて私は返事をしようと口を開くのだが顎ががくがくと震えて声にならない。私は何度も何度も頷いて彼の胸にまた顔を埋めた。

「名前、返事を聞かせてくれ」

「わ、たし…エルヴィンと、け、っこん、したいですっ…」

貴方と幸せになりたい、幸せにしたい、毎日楽しく生きていきたい。もう一度強く彼の体を抱きしめると、エルヴィンがありがとう、と言って私の髪にキスを落とした。








Iris







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