「や…スミス、伯爵、」

金色のまるで月のような髪をポマードで撫でつけ闇に混じるようなテールコートを着た背の高い男性。
あまり怖がらないでほしい、と薄く笑う彼はとてもハンサムで感じがよい。だがその笑う口元から覗く鋭い牙。震える足が彼は危険だと告げている。

「逃がさないよ?」

「や、…やです…」

ぶるぶると震えて私から少しでも逃げようと壁際に避ける彼女が愛おしくなって私はそっと彼女の髪を掬い唇を寄せた。
キャミソールのワンピースから覗く鎖骨が白く艶めかしい。そっと抱き寄せると彼女は先ほどの抵抗が嘘のように固まる。

「っひっ…」

ぺろり、と鎖骨を人舐めすると大げさに揺れる肩。どうしてこんなに怖がられてしまったのかな。苦笑しながら彼女の薄い桜色の唇にキスを落とす。ああ、温かいな。と思った。
こんな時ではないと人肌を感じる時なんてないのだから。

「…んっ…は、ゃ、だぁ…んぁあ、っ…」

口内を舌で荒らして、それと同時に首筋を指でカリ、とえぐる。つつつ、と垂れてきた血は芳しい匂いをさせて私の鼻孔をくすぐる。

「ぃ、た…」

つたう血を一舐めしてから牙で薄い皮膚に穴を開ける。彼女の白い指先に力が入りもっと白くなる。耳元を撫でて力を抜かせることは忘れずに。それでも痛みに歪む顔。
可愛いな、そう考えながらも血を吸うことは忘れず。

「ゃ…」

どうやら気が付かないうちにがっつきすぎていたようだ。彼女から力が抜けてその場に崩れ落ちる。私は口元の血を拭ってから彼女を抱き上げた。






滴る血は極上の






「はーーーーーーーいカットおおおおお!!!!」

ハンジの声が響き渡り私はぱちり、と目を開けた。大丈夫かい、というエルヴィンに先ほど倒れる演技でぶつけた腰が痛い、と言いながら手を借りて起き上がる。

「ハンジ、どうだったかな」「もおーバッチリだよおーーー!エルヴィンのあの熱い目!ほんとに血を欲す吸血鬼みたいだったよ!!!!」

ならよかった、とエルヴィンはテールコートを脱ぎキャミソールのワンピースを一枚着ただけの私にかけてくれた。

「…かと言って本当に舐めることないのに」

私の愚痴るようなつぶやきにハンジはビデオをいじる手を止めた。

「やっだなあエルヴィンそこまで演技熱心にならなくてもいいのに」

「…そうだったか、なかなか難しいものだな」

難しい顔をして考え込むエルヴィンは着替えのため楽屋へ戻るといって私の肩を掴んだ。
私の首筋の血糊を観察するようにエルヴィンは身をかがめた。

「ばらすとはいけない子だな……もっと悪戯をあげようか」

ぞくぞく、と背中が跳ねる。先ほどとは違い本気で危機感を感じ引いた体はエルヴィンに捕まった。

「trick or treat」

「とっ…とりーとで…」




\happy halloween/