泣きたい、と珍しく思った。彼に会いたい、といつものように、しかし強く思った。
限界まで疲れると涙が出そうになるのは何故だろう。ぼろぼろの体を引きずりアパートまでつくとエレベーターで最上階のボタンを押す。

「ただいま…」
「おかえりなさい!名前さん」

静かな部屋の真ん中のテーブルで何冊か参考文献を横に置きパソコンに向かっているのはエレンくん。今年に入ってから一緒に住み始めいつからか仕事が終わってから笑顔で出迎えてくれる彼が当たり前になった。

「うーーーー今日は、もう、寝る」

部屋の隅に置かれたセミダブルのベッドに飛び込むようにして私は寝ころんだ。重たい鞄は脇に置く。枕からは太陽のいい匂いがした。あたたかい。

「エレンくーん、枕干してくれたの???」

「んー」

エレンくんはパソコンから手を離してこちらに向き返った。

「あーもう名前さん、駄目じゃないですか。すぐに寝ちゃ」

お風呂も入ってないしメイクだって落としてない!そういって私を揺するエレンくん。やだもう明日はようやくお休みだし寝たい。私が駄々をこねるようにそういうとエレンくんは呆れたようにあっちへ歩いていくのが閉じた目越しに伝わる。
ガサガサゴソゴソとなにかを漁るような音が聞こえた後にパタパタとスリッパの跳ねるような音。

「…ん。」

ぴたり。冷たいものが目元に触れて慌てて私は目を開けた。あ、冷たかったですか?そう言ったエレンくんは私がいつも使っているピンク色の瓶のクレンジングオイルとコットンを持ったエレンくん。

「目、閉じててください。沁みたら痛いですよ」

さらり、と前髪を撫でられ私は目を瞑った。自分よりずっと丁寧に目元をなぞるエレンくん。
なんだかうとうととしてしまう。温い手は気持ちがいい。
顔全体を優しく拭われその手で顔全体を優しく揉まれる。

「ほら、着替えさせますよ」「…うんー…」

眠さで返事が適当になった私にエレンくんは優しく笑って私の黒いボトムスをゆっくりと脱がせた。外気に肌が触れ寒くてぴくりとするがすぐに灰色のスウェットが着せられる。
上着も同様に脱がされ丁寧にハンガーへ掛けてクローゼットへ閉まってくれる彼はまるで旦那さん。というよりお母さんのようだった。年下なのに。

いつも大学で一緒にいるといっていたあのみかさ、という女の子にも同じようにするのだろうか。そんな大人気のない嫉妬の火が私の胸の中をちりちりと揺らめく。
まったく。だるい、起きれない、そう思っていた体はこの時にだけはちゃんと動くのだ。
私は上半身だけ起き上がり近くに座ってパソコンに向かいなおしていたエレンくんの首元に抱き着いた。

「…えれんくん、すき。」

だけどやっぱり自分の声は眠そうで。ふふ、と笑った声はエレンくんの耳をぴくりと動かした。なんだかすごくかわいい。

頬の筋肉があり得ないくらい弛緩していてこんな私は緩んだ顔が出来るのだ。と思ってしまう。仕事中なんていつも張りつめた顔しかしていないだろうし。
そうして幸せを感じていると私のせっかく起こした体は反転して倒れた。
もう少し衝撃がくるかと思いきやなかったので目をそろそろと開けると頭の下には都合のいいことに座布団が置かれてる。さっきまでこんなとこになかったのに。
む、とエレンくんを見るとその瞬間にキスされた。唇が触れ、周りをなぞるように舐められて口を開けさせられる。浸食してきたエレンくんの赤い舌がざらり、と私の舌をなぞると後頭部がぞわりとして私は彼の服をぐい、と引っ張った。ここで止めないと手遅れになる気がする。


「エレンくん、も、眠いからっ…」

ふにゃん、気の抜けた犬のように笑ったエレンくんは私に膝下と首に手を差し入れ軽々と持ち上げるとベッドの上にどさり、と乗せられる。
ありがとう。そういって私は壁際に寄ると目を閉じた。今日は疲れたからすぐに寝れそうだ。





「…いっ………」

スウェットの上がめくられ手が入ってくる。くすぐったさと冷たさで私はもう一度目を開けた。

「あんなかわいいことされて寝かせられるわけないじゃないですか」

寝かせませんから覚悟してください名前さん。エレンくんはそういい笑顔でいうと私の上着を剥きびっくりするほどはやく後ろのホックをはずされる。
疲れ果てた私の体はエレンくんの体から離れることも拒否することもできずシーツをくしゃりと乱した右手は彼によって掬われ絡められた。







その舌に悩まされる