放課後。掃除も終わって皆が部活へ行ったりバイトへ行ったり帰っていくなかで私は数人の友達と雑誌をめくったりして談笑していた。
「名前今日のネイルチップ超かわいい〜自分でやったの??」
「そ〜でも簡単だよ?」

そのノリでぱらぱらと雑誌のネイルのページを漁って次のデザインを考える。
秋っぽいネイルがしたいな。ならネイビーとかボルドーとか入れて作りたいかも…とか考えていると机の上に置いたスマートフォンが震えて特有の音が鳴る。ロック画面に表示されるのは見慣れた緑色のアイコンと年の離れた恋人の名前。
少しだけどきどきとして息苦しくなる私。
友達はその様子に気付いたのか意地悪な顔で「彼氏???」と聞く。
私は軽く頷きつつスマートフォンを手に取った。

『今日は定時で帰れそうだ。家で待っていてくれると嬉しいな、君に会いたい』

手が震えた。こんなことしてはいられない。私は急いで雑誌を鞄にしまって席を立った。

『今から用意します。私もはやくエルヴィンさんに会いたいです』



慌てて家へ帰り制服から私服へと着替える。少しでも大人になれるよう、友達と遊ぶ時とは違った女性らしいラインの服装。それらに身を包み私は彼にクリスマスプレゼントに買ってもらった少し高い鞄を持って家を出た。

「エルヴィンさん、」

はやめに家を出たはずなのに彼はもう家に帰っていた。ボーダーのTシャツにベージュのパンツを履いてネイビーのカーディガンを羽織った彼の髪は少し濡れていて風呂に入っていたことがわかった。

「久しぶりだね」

その言葉に私は少しだけ泣きそうになった。目は潤んではいないはずなのにエルヴィンさんはそれを感じ取ったのかよしよし、と頭を撫でてくれる。彼は洗面器にお湯を汲んできてリビングの机の上に置いた。するり、と手をとられ温かいお湯の中に入れられる。手際よくネイルチップは外され軽くマッサージするように揉まれる。気持ちが良くて私は目をそっと伏せた。
その時に目元にちゅ、と触れる唇。取れたよ、あっちへ行こう。彼に手を引かれて寝室に入る。ベッドに座ろうとした体は彼の体重のせいで跳ねたスプリングで倒れる。

「んっ…えるびんさ、ふぁっ…」

ちゅ、ちゅ、と啄むようにキスをされる。頬にも額にも落とされ私はしがみつくように彼の腕を握った。

「こんなことばかりしていては体目当てだとか君を誤解させるかもしれないな。」

エルヴィンさんは甘える子供のように私の心臓の上に頭をくっつける。そんなことしたら私の破裂寸前の心臓の音が聞こえてしまうのに。

「わ、…たし、エルヴィンさんが私のこと好きって…うぬぼれかもしれないけどすごい、わかってます、からっ…」

言っている間にどんどん恥ずかしくなってどもる私。エルヴィンさんは私を見つめていて。
顔はどんどん熱くなってきた。

「名前」

好きだ、愛してるよ、そういって絡む手。私はそっとエルヴィンさんの額にキスをした。










「……ん、」

何時だろう。そう言って手繰り寄せたサイドテーブルの時計はすでに朝を告げていた。彼にしっかりと抱きしめられなかなか離れられない体。もう、エルヴィンさんが起きる前にメイクしたいのに。そう思いどうにか手をほどくとサイドテーブルの上に綺麗に並べられたネイルチップといつとれたのだろう(恥ずかしい)つけまつげ。
なんてことないこと。だけどその細かな気遣いに何だか私はとても感動してエルヴィンさんの綺麗な髪をそっと撫でた。









ありきたりでばかみたい