「エルヴィン、お買い物行こう。」

10月14日。彼女と会う日には赤で丸をつけているカレンダーがそれを示している。昼前のその時間に家まで来た彼女はそう言った。白いオフタートルにボルドーのスカートを合わせた彼女の髪はいつものストレートと違い薄い色素の髪がふわふわとしている。

「買い物?」
何か欲しいものがあるのか?そう問いかけると彼女は頬を膨らまし腰に手を当てて言った。
「今日はエルヴィンの誕生日でしょ。」
本当はプレゼント用意しようと思ったんだけど何がいいか思いつかなくて。だからほら探しに行こう?そう笑う彼女はいつもより可愛らしかった。いやいつも可愛らしいが…なんていうのは恋人の惚気になってしまうのだろうか。

「ものじゃないといけないかな。」「へ。」「ひとつだけでいいからお願いを聞いてくれ」

いいよ?頭にハテナを浮かべたようにキョトンとする彼女に意図は伝わらなかったようだ。
もちろんそっちの方が都合はいいんだけれども。

ふいに顔を寄せてちゅ、ちゅ、と啄むように口づけるとまるでくしゃみをしたときのような顔をしている名前。頤に手を当ててから引き寄せる時の覚悟するように瞑る彼女の瞳も好きだけれどパグ犬のようなその顔がなんだかとても可愛くて私はその鼻にもう一度口づけた。
タートルの裾から手を差し込み脇腹をそっとなぞる。それだけで彼女がぴくんと震え「冷たい、よ」と文句を言うように言った。胸を柔く揉み唇をまた触れさせると彼女はこらえるような熱い吐息を漏らす。タートルをそっと脱がせる前にベッドの脇に置いてあるリモコンで部屋の温度を上げる。

「ほら、手をあげて」

恥ずかしそうにそろそろと万歳のポーズをとる彼女からするすると衣服を剥いでいく。

「エルヴィ、ん、ふ…っ」

舌を胸に這わせるとぎゅ、と彼女が私の頭を押さえつけるように抱きしめる。

「たんじょ、び…おめでとっ…」

ちゃんと言えてなかったから。そう赤面する彼女がかわいくて私は上体を起こしていた彼女をもう一度ベッドへ倒した。シーツがくしゃりと握られ乱された。









「ん、」

夕べはどうやら熱くなりすぎてすぐに寝てしまったようだ。掛布団からのぞく自分の胸が裸なことでそれに気づく。いつも彼女の頭を乗せている腕は空いていてキッチンのほうからカシャカシャと金属音のような擦れるような音がする。
そろりと近づいて彼女の背中に抱き付くと跳ねるように驚く彼女。

「え、えるびんさん???!!!」
ちょ、やだ服は着てください!!!激しく主張する名前は口づけて黙らせた。
翌朝のベッドでの楽しみを奪われたんだからこれくらい許容範囲であろう。

「ンっ…ぁ、やっ…だ、めっ!!!!」

腕をつかまれ引き離される。自分でも怪訝な顔をしているのがわかった。
彼女は赤い顔でそっと右に一歩ずれた。背中に隠れていたものが出てくる。

そこには赤い苺で飾られた小さなケーキ。幼い頃の記憶にしかないような茶色いプレートには名前と少しだけ震えた字で誕生日おめでとうと書かれている。

「名前、ありがとう。私は幸せ者だな」
「や…そんなっ…美味しいといいんだけど。」

2,39cmほど離れている彼女をすっぽりと覆うように抱きしめると彼女はもぞりと身じろぎした。

「あ、の、エルヴ、ぃっ…」

あたってる、小さい声で呟いた彼女を軽々と抱き上げ私は机に置かれたケーキを冷蔵庫に入れつつもう一度寝室へと向かった。









あなたが生まれて、







2013.10.14 erwin smith happy birthday