「あっ、エルヴィンさん!」

慌ただしい朝は乗り換えるためだけに使う駅。しかし意外と栄えててご飯食べる場所も遊ぶ場所もいっぱいある。そんな駅で少しだけ学校にいる時よりも制服を着崩してそわそわと携帯を見ながら待っていた私。仕事終わりにお互いの経由駅で待ち合わせしてご飯を食べにいくことになった。スーツで現れたエルヴィンさんは仕事ができる大人、って感じでとても格好良い。土日に私に家に来るように誘ってずっとベッドの中にいる時とはまるで違う人みたい。そう考えて少しおかしくなる。

「行こう。制服じゃあれだからファミレスでもいいかな」
「はいっ」

ファミレスでもなんでもエルヴィンさんと食べられるんならどこだっていい。私はエルヴィンさんの手を握ってついていった。
友達とよく行くチェーン店のファミリーレストラン。なんだかそこにエルヴィンさんといるなんて不思議な気分だ。店内は平日だからか空いていて窓際の席に掛ける。

「名前、なに食べるか決めたかい?」
「んーじゃあ担々麺にしようかなあ」

ハンバーグとかステーキとかがっつりいきたい気もするのだが彼女ががっつり系なのもなあ…とか思ってさっぱりしてて且つ野菜の入っているものにする。うん、健康志向。
空いてるからか待つ暇もなく来た料理。

「いただきます。」

箸を持って手を合わせるエルヴィンさん。当たり前のことだけど外でもきちんと挨拶する彼がかわいいなと思えて急にたまらなく愛おしくなった。いつもそうだ。彼は年上だというのにすごくかわいく見えて親心みたいなものが沸き起こるんだ。何故だろう。
担々麺は少しだけ辛いけど水菜がシャキシャキとしててとてもおいしい。けれど飲み物をたくさん飲んでいたらすぐにお腹がいっぱいになってしまった。
原因に心あたりはある。今日は忙しくて朝ごはんを食べる暇がなかったのだ。…それから昼ご飯は…エルヴィンさんと交際という関係にあるから、その、行為に至ることもあるわけでその時お腹が膨らんでいるのは嫌で購買のプリンだけしか食べなかったのだ。
そりゃあ胃袋縮むよな…と思いつつ無理して食べていたのだけどやはり進まない箸。
エルヴィンさんはいつの間にか食べ終わっていていつもよりペースの遅い私に気付いたのか片眉を下げて少し心配そうにしてくれる。

「名前、苦しいか?具合でも悪いのか?」

本当に心配そうで心苦しくなる。ごめんなさい心配かけて。

「今日全然ご飯食べなかったから胃袋縮んだみたい…」

食べられないかも、そう言って箸を置くとエルヴィンさんはお皿を自分の方へ引き寄せてずるずると麺を啜った。私は手を付けなかったが一緒に来たラー油をどんどんかける。
あ、エルヴィンさんって辛いの好きだったんだ。

「ほら、最後の一口食べなさい。」

エルヴィンさんに差し出された最後の一口を啜ると食べ始めた時より遥かに辛くなっていて噎せてしまった。それがなんかおかしくて二人同時に吹き出してしまう。
いつもエルヴィンさんが休日に連れて行ってくれるところはお酒が飲めるお洒落なところだったり(もちろん私は飲ませてもらえないんだけど)高そうなレストランだったりするからこういうデートも友達によく話で聞くような高校生カップルのようでいいな、と改めて思った。

「名前帰れるか?」「うん、大丈夫です、駅から近いし」

駅のホームまで二人であがると私の乗る電車のが先に来る。少し名残惜しいな、と思いつつもこう聞かれたら帰るしかない。とりあえず電車が来るギリギリまで私たちはホームでくだらないことを話して(今日も教室でリヴァイ先生に怒られていた同級生のエレンの話とか)私は電車へと乗り込んだ。

「じゃあ、今日はありがとうございました。楽しかったです。」

出来るだけ可愛く笑おう、そう思って微笑む。次にいつ会えるかなんて分からないから別れた瞬間にいつだって涙が出るのにね。その刹那、そうドアが閉まる一瞬前ににゅ、と腕が伸びてきて私の腕は掴まれて車体の外に出ていた。
気付くと後ろでは閉まっている電車のドア。抱きしめられている私の体。なんだか切なげな顔をしているエルヴィンさん。

「へ…え、エルヴィンさん…?」
「そんな悲しげな顔をするな、帰したくなくなる」

なくなる、ではなく帰さないけどな。そうエルヴィンさんは呟いて私の腕を引っ張ってタクシーを呼んだ。普通の高校生みたいなデートは終わりでひっくり返されたがそれでもやっぱり私はエルヴィンさんが愛しくてたまらない。私は彼の首に抱き付いて金色の髪をくしゃくしゃとかき混ぜるのだった。




スイートマリア