私の好きな人は、誰よりも美しい。
この残酷な世の中でまるで光のような人だった。
こんこん、と二度ノックをする。彼はノックなしに部屋に入られることが何よりも嫌いだから。
普段ならノックするとすぐにドアを開けてくれるのに今日は開かない。
寝ているのだろうか、それとも不在なのだろうか。
こっそり中を覗こうとほんの一センチドアをあけると書類の山とともに机の上に沈んでいる彼の姿。
いけないそんなところで寝てしまっては。
風邪をひいてしまうかもしれない。
怒られるのを承知で部屋に入り、体をゆする。
「兵長、起きてください」
すーすー、と穏やかな寝息は聞こえるものの彼は一向に起きそうにない。
お疲れなのだろうか。
いつもよりも顔色が悪い気がして心配になった。
手元にある書類には先日の壁外調査の犠牲者と遺物処理についてが書いてある。
こんなのを見てたら気が滅入るのは当たり前だ。
彼は前線ですべてを見ていてそれでも尚生き残って帰ってくるんだから。
彼がひとり強くても犠牲を0にできるわけではない。それは当然なんだけど。
なんだかんだ彼は部下思いな人だ。きっとまた悔やんでいる。
そしてまた帰ってくる自分にさえ自己嫌悪も感じているのかもしれない。
部屋の隅に置いてある、小奇麗なベットに寝かせてあげようと思い抱き上げるとやはり男らしい重い体。小さいのにね、この男にしては小さい体であなたはどこまでも背負ってしまうのだ。
起こさないようにそっとベッドに寝かせるとスプリングが軋んだ。
「おやすみなさい」
部屋をそっと出る。
私も早く寝てしまおう、そう思って部屋に帰り適当にシャワーを浴び(潔癖症な兵長に嫌われない程度に)歯磨きをして部屋着に着替える。
ベッドに潜り込んで意識を沈ませるとさきほどの白いシャツからのぞく兵長の首筋が見えた。
もし、いつか巨人に兵長が殺されるとしたら。
その前に私がその首を絞めてゆるゆると意識を奪ってしまいたい。
最後の酸素はキスで奪い取って、最後の瞳には私だけを映してほしい。
そうしたらそんな私をだれか殺してくれるだろうか。
夢でも細い貴方の首