何故、彼は私を選んだのだろう、といつも思う。どこにいても平凡な私を。
巨人が襲ってきても世界一幸せな二人の小さなコミュニティさえ守れない私を。
でも彼は違う。立体起動装置をまるで翼のように使いこなして軽やかに宙を飛び、刃をはためかす。
それでも私は恐いのだ。彼が人類最強といってもあの規格外な巨人がいつ私の愛おしい彼を胃袋に飲み込んでしまうか分からないんだから。
静かな部屋にカチャン、と扉の開く音がする。ベッドに座り込んで本を読んでいた私は玄関へと走った。
「リヴァイ」
上品なシャツにジャケット。いつもの兵団のジャケットではないしいつもの訓練が終わってから訪れる時間ではない。そして極め付けにはいつも悪い目つきに浮かぶ隈。
「明日なんだね」「ああ。」
そっけなく答えたリヴァイ。きっと彼は私ほど怯えてなんかいない。あなたは強い人だから。部下の心配こそすれ自分のことなど露程にも気に留めていないのだろう。
「あのねリヴァイ死「なにも言うな名前」
いきなり私の胸倉を掴んでベットへと押し倒したリヴァイは唐突に口づけた。
言わせてもらえなかった言葉は言葉にならない声となる。
「んんっ………リ、ヴァ…ふっ…」
「お前俺が死ぬと思ってんのか」
まさか、そんなこと思いたいわけじゃない。ただあなたと一緒にいるには月に一回の壁外調査が恐ろしいサイクルになっている。そして私は帰ってくるあなたを抱きしめて安心するのだ、ああまだ温かいと。
そんな複雑な気持ちを見越したのだろうか。リヴァイは薄く笑い(珍しい)くしゃくしゃと私の髪を撫でた。
「死なねぇから安心しろ」
風呂借りるぞ早く寝ろ、と言って浴室に向かったリヴァイを見送り私はもう一度ベッドに潜った。
ああ、これはどういうことなんだろう。
「いやああああああああああああああああああ助けてお母さんんんんんんんんん」
「きゃああああああああああああああ」
「痛いよおおおおお」「やだっやだやだやだっっっ死にたくないよお!!!!!!」
リヴァイを送り出したその昼。煩い地響きにドアを開けると明らかに大きな人。人じゃない、巨人。
食べられていく子供。母親。家族を守って進んで食べられていく父親。必死で逃げる子供。
頭をむんずと掴まれ食べられていく人々。立体機動で必死で応戦する駐屯兵団。
後ろからも地響き。ああ、もう後ろに迫っている。この感じだと13m級はあるかもしれない。昔壁外で戦っていた時の勘が蘇る。それでも立体機動装置も超硬質スチールも持ち合わせない私ではどうしようもないのだ。
ああ、リヴァイ。私はあなたが死ぬことばかり危惧していたけどこんな別れがあったなんてね。あなたは帰ってきて私がいなかったらどう思うのかしら。
「嫌だなあ、名前のない骸になるのは」
せめて最後はあなたに抱きしめられて部下が亡くなった時にいつも言っていたあの言葉を聞かせてほしいの。それで生き急がないでね。私はゆっくり待っているんだから。
駐屯兵団が投げ捨てたなまくらになった刃をせめてと握りしめ私は巨人をにらみつけた。
ばいばい、リヴァイ。
不条理なご時世ですから
兵長の出番少なくね、とか言ってはいけない。
アニメほいほいされてあわてて漫画全巻集めました。一番好きなのはペトラです。珍しく女の子にはまって動揺してる