Clap




ありがとうございました!
返事は更新履歴にて返させていただきます。






「壁外調査って自殺行為よね、」

新兵に与えられた2段ベッドがふたつ並んだ部屋。軍隊の規律よろしく綺麗に整理された部屋には人数分の人はいない。そして扉の前には住人たちのすくない荷物が3人分まとめられている。同期であるエルヴィンはどこか見えないものを見つけるかのような遠い目をしていた。私は彼の腰掛けるベッドの足元に座り込んで昨日から爪に入り込んで取れない泥と血の塊を取りつづけていた。ドアがノックされる。


「キンバリー、ヒリードリヒ、ローベルト。」
「はい、順番に並んでいます」

金髪を振り乱したエルヴィンは立ち上がって遺品を先輩兵士へと渡していく。先輩兵士は淡々とした表情で遺品の受け渡しを行い嵐のように去っていった。
きっと彼らは生き残っていくうえでこの悲しさ、やるせなさを何度も体験したのだろう。
それでも私は。


「自殺行為でも、骸が積み重なっても、その頂上に何か見えるかもしれないわ」

だから、そんな顔しないで。いつもの訓練兵を首席で卒業した余裕綽々な、調査兵団を変えるんだ、そう自信に溢れた顔で言ったあなたに戻ってよ。抱きしめようとした腕はどこか心の抜けたその茶色のジャケットを握りしめただけだった。





「目の前!10m級巨人接近」
「違う!班長後ろ!!!!」

ぴくり、と耳を震わせた馬に不穏な雰囲気を感じ取り叫ぶ私。思い切り叫んだ声は掠れているしすごく高くて、そう金切声。でもその声を上げる頃にはもう遅くて班長は馬ごと潰されてただの血の塊になっていた。
ひっ、と竦むような声が出たところで巨人の爆風にやられ馬から転げ落ちる。
擦れたところからはびりびりと痺れるような痛みを感じるし、どこかへ行ってしまう愛馬の足音が聞こえる。遠くに見えるのは朝日に照らされる金髪。
ああ、壁の外ってこんな低い位置の太陽まで見えるのか。
先ほどより大きい巨人がエルヴィンへ手を伸ばす。その手を。汚い手を。触れさせたりするもんか。
伸びる手の甲を切りつけて、指に力を入れる筋肉を削いで、ふくらはぎを切りつけて、倒して、大きく大胆にうなじを削ぎ取る。倒れた巨人に目をやると私はしゅるしゅると立体機動で地面へと降りた。

「エルヴィン、」

彼は呆気にとられた顔をしていた。私が現れたことに、ではない巨人が倒れたことに、だった。彼は誰だかの死体を抱いていて一緒に死ぬ気だったように思えた。
エルヴィン、立って、ブレードを構えて。そういうとエルヴィンが身じろぎするのがわかった。

「エルヴィン、生きて」

懇願するように私はそう言った。

「世界が美しくないと生きている意味なんてないんだから。」