赤色の癒し系ひーろー


「あー疲れたー」


どさっと、持っていたリュックを地面に投げ下ろし、俺自身も腰を下ろす。木陰であるそこは日向よりもいくらか涼しく、木に寄りかかりながら俺はほっと息を吐いた。


雑魚モンスターの駆除なんて、わざわざ俺にやらせなくてもいいじゃんか…。


「はーあぁ…」


俺、ウィズは普通の村の普通の村人だ。村人Aだ。そんな俺が村から出て何をしているかというと、村人Bのおじさんが村の外にある畑を一年ぶりに耕そうとしたところ雑魚モンスターが大量に住み着いていたため、その駆除を頼まれたというわけだ。何で俺に頼んだか聞いたところ「暇そうだったから」と真顔で言われた。暇じゃねぇよ暇だけど…。


まぁそんなわけで心優しい俺はその村人Bのために畑の雑魚モンスター駆除をしていたわけなんだが、雑魚モンスターと言っても俺はただの村人A、戦闘スキルなんて皆無なわけで、そこそこ手こずっていた。レベル1の勇者に木刀一本、鍋の蓋一枚の装備で50匹ぐらいいるモンスターを倒せなんて無茶な話だ。日も照っていて暑いし。だるいし。面倒だし。


「はぁあ…」


本日何度目かも分からない溜め息。憂鬱だ。もう畑に戻りたくない。畑の外の方がよっぽど敵が少ないんだ、意味が分からない。もう畑耕すのやめろよ、何か作物つくっても出来た瞬間ただのエサだよ。


あーあ、本格的に面倒になってきた。もう寝てしまおうかな。疲れて気がついたら寝ちゃってましたー、なんて言って。


そう思って目を閉じた時、


「きゅ?」


そんな鳴き声がした。
この鳴き声は、スライムか。雑魚中の雑魚、俺でさえ1度や2度の攻撃で倒せる、下等生物のスライム。別に放っておいても大丈夫だろう、と考えた俺はスライムを放置し、また眠ろうと力を抜いた。


が、


「きゅう…?」


もぞ、と何かが俺の脚の上に乗る。もぞもぞと俺の身体を上へ上へと上ってくるそれに、だんだんぞわぞわとした妙な感覚に襲われて、我慢できずにとうとう目を開いた。


「きゅっ!」


予想通り、いたのはスライムだった。驚いたのがそのスライムがよくいる青色や緑色でなく、珍しい赤色だったこと。
スライムは基本青色か緑色。そのほかの色はいるにはいるが珍しい。一番珍しいのは透明、だったはず。まぁ、赤色でも十分珍しい。


「きゅ、きゅー…」


ぷるぷる揺れるスライム。不安げにこちらを見てくる瞳に、敵意とかそういうのは感じられなかった。


「…お前、どうしたんだ?」
「っ!きゅー!きゅきゅっ!」


話しかけてみれば、嬉しそうに跳ねる。ぴょんぴょん跳ねながら俺の腹の上まで移動してきて、きゅーきゅー鳴いて。どんだけ嬉しいんだよ、と思ったら自然と笑みがこぼれた。


「なんか可愛いな、お前」
「きゅっ」
「なんで自信ありげにすんだよ」


ははっと笑えばスライムも笑う。あぁ可愛いなぁ、ペットにしちゃいたい。でもスライムをペットにしたなんて村で知れたら馬鹿にされること確定だ。まぁ馬鹿にされたところでスライムが癒してくれるんだろうし、俺は気にしないけどさ。


癒されるなぁ、なんて思ってたら本格的に眠くなってきた。


睡魔を跳ね除けるなんて選択肢はない。俺はスライムをそっと抱き締めて、体の力を抜く。木にもたれかかり、寝る気満々。
さあ寝るぞ――と目を閉じたとき、


「きゅ!きゅきゅきゅ!きゅーっ!」


スライムがうるさく鳴きながらぴょんぴょんと跳ねて激しく自己主張する。が、俺は生憎スライム語は分からない。


どこか必死そうなそいつを見て、俺はふぅ、と息をつき、スライムを抱えて立ち上がった。


きっと何か、伝えたいことがあるんだろう。


「おい、一体何が言いたいんだ?」
「きゅ!きゅう!」
「…?何そんな焦って……」


目を見開き、激しく体を揺らすスライム。その視線の先に何があるのかと後ろを振り替えると。


「ッ!?」


図鑑の上でしか見たことのないようなモンスターが。俺の、上に、腕を、降りかぶって。
って、え?


「っうわあぁああ!」
「っきゅうぅうう!」


叫び声が重なる。本能的に瞑った目、スライムを強く抱き締めた腕、スライムを庇うように捩った身体。
けれど全身を緊張させて覚悟した衝撃は、いつまでたってもやっては来なかった。


恐る恐る、目を開けば、


「きゅう!」


スライムが体を伸ばして、でかいモンスターの腕を捕らえていた。赤いスライムが光って白く見える。
なんで雑魚モンスターのスライムがこんなやつの腕を、とか、なんで光って、とか考えているうちに大きなモンスターはしばらく固まったあと、諦めたのか去っていった。


「帰った…のか…?」


脅威が去ったことにほっと安堵する。腕の中を見れば、きゅ!と自信ありげに笑う赤いスライムがいた。


「……ったくもう、お前雑魚のくせに反則だっての…」
こんなときばっか格好いいとか、ちょっときゅんときちゃったじゃねーか


へへっと笑い、サンキュ、と小さく礼を言ってスライムの体にキスを落とす。スライムは一瞬きょとんとしたあと、嬉しそうに笑った。


「お前、今日から俺のものな」
「っきゅ!」


とりあえず今日は家でこいつと寝るとするかな。



***



「ウィズ!モンスター退治ご苦労だったな!これ駄賃だ!」
「ぅえっ?おじさん、あの俺、」
「いいから受けとれ!おっ赤いスライムか、珍しいな!じゃ!」


話を聞かないことに定評のある村人Bのおじさんは後日、モンスターにやられてボロボロになって帰ってきたあと、「もうあそこの畑は諦める…」と言ったらしい。
ごめん、おじさん。
でもお金はもらっておきます。



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