幸せってなんだろうと、ぽつりと呟いた。
あの美しい狐はいつも私を一番だと…
…一番大切だと、言うのだけれど。
そんなことは嘘だと、私はとうに気が付いていて。
だから、だからこそ、このぬるま湯のような暖かで残酷な「幸せ」というものに身を投じている。
(──…ほらまた、)
あの狐の金の瞳は、私を見ていない、
愛していると言いながら、その瞳は私を捉えてはいない。
あの瞳が捉えているのは…私ではなく、私の中の「彼の人」だ。
(慣れてしまうのも、寂しいものね)
一人ごちる。そして気付く。
寂しいのか、と。

──…自嘲した。

私はあの美しい狐の一番にはなれない。
だって、狐の一番は…私の中に眠る「彼の人」だから。
何故分かるか、だなんて。そんなの決まってる。
私の中にいる以上、彼の人は私でもあるからだ。

『主上、何故泣くのですか』
「やだ、泣いてなんていないわ。変な玉」

笑えば狐も笑う。
寂しそうに、哀しそうに。
(──…変な狐)
何故狐がそんな顔をして笑うのだろう。
お前にそんな資格ない、なんて…そんな馬鹿なことを言うつもりはなけれど。

(狐も、寂しいのだろうか。)
千年待った愛しい人が、私の中に封印されていることが。
もう二度と彼の人に、狐にとっての最愛の人に逢うことが出来ないことが。

狐にとって私は憎むべき存在なのに、狐は私に愛しいという。
でも、その愛というものは私の中の彼の人に向けられたもので。
私にはその愛情とやらは一つも向けられていないのだ。

(真実に気付かなければ、幸せだったのだろうか。 )

でも私は…その紛い物の愛を欲してしまっている。
一度知った温もりを、愛情を…手放すことが出来ないでいる。

──…幸せってなんだろう?
紛い物の愛を貰っている…そんな私は愚かで滑稽だけれど

確かに幸せでもあるのだ。
偽物の愛情にも、幸せを感じてしまっているのだ。
狐の思う壺ではないかと、思うときだってある。
でも、それ以上に…私は…──



(例え偽物でも、愛情を知ってしまったの)
(そのお陰で…独りが怖い事だと、孤独が怖い事だと気付いてしまったわ)
(だから私は狐に化かされる)
(甘い夢をみて、ぬるま湯のような優しさに浸りながら)
(残酷な現実から目を背けるの)

──…ねぇ、私は幸せだよね?




▼上のssが
 下のような漫画になります




(例え偽物でも、愛情を知ってしまったの)
──…ねぇ、私は幸せだよね?




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