▼「ありがとう」を貴方に

弾けるような高い音が響くと同時に、次々と無数の火の粉が生まれる。するとそれらは天高く、そしてゆらゆらと舞い上がっていった。全てが異なる軌道を描きながら。
しばらくしてイリアは、赤々と燃える焚き火に薪を投げ入れた。次の瞬間、まるで水を得た魚のように、一気に勢いを増す。そして、ぼんやりとその様を見つめる彼女の顔を明るく照らし出した。

「さっきから固まったまま何見てんだ? 珍しいものでもあったのか?」

不意に、からかうような声と共に肩を叩かれたことで我に返り、イリアは慌てて振り返った。視線の先に立っていたのはルイファス。あまりの彼女の驚きようを怪訝に思ったのか、彼の端整な顔は僅かにしかめられていた。
それを目にした途端、イリアの心に罪悪感が込み上げてくる。いつの間にか、彼女の想像以上に時間が過ぎていたからだ。その上、肩を叩かれるまで彼の気配に全く気付けなかった。それが恥ずかしくもあり、腹立たしい。
たまらず、ばつが悪そうに目を伏せる。

「ごめんなさい、見張り当番の途中なのに……」
「いや、見張りって言ってもエリックの結界の魔法があるから、実際は火の番をするくらいだからな。どうってことないさ。それよりも――」

言いながら、ルイファスはイリアの隣に腰を下ろす。そして体ごと彼女の方を向き、至極真剣な眼差しで問い掛けた。気遣うように、優しく。

「お前がぼんやりするなんて珍しいな。考え事か?」
「いいえ、そんなんじゃないわ」

「……そうか。まぁ、お前もたまにはそんな風に気を抜く時間が必要だからな。だが何かあったら、いつでも俺に言えよ」
「ありがとう、ルイファス」

観察するようにイリアを見つめていたルイファス。だが、彼女が嘘を吐いていないことを感じ取ると、ホッと胸を撫で下ろし、そっと笑みを浮かべた。
二人が出会った当初から、ルイファスはイリアを本当の妹のように気に掛けていた。そんな彼の優しさに触れると心が安らぎ、同時に、ほんの少しのくすぐったさも覚える。
イリアがはにかむとルイファスは目を細め、くしゃくしゃと彼女の頭を撫で回した。

「ちょっ……もう、ルイファス! 止めて!」
「悪い悪い。にしても、こうすると喜んだんだがな……」
「それは私が子供の頃の話!」

乱れた髪を直しながら、イリアは悪びれずに笑う彼を軽く睨む。だがそれでも、彼は彼女を軽く受け流すばかり。そんな態度を見ていると、一人で怒っていること自体が馬鹿らしく思えてくる。
彼女のしかめ面が苦笑に変わると、彼は「さて、と」と体の筋を伸ばした。
そして、上げた手の片方を彼女の頭に置いたその瞬間、先程のことで警戒したのか、僅かに身を強張らせる。


















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