▼ 口づける【アカギ】
<バレンタインデー編>
夢主は同じ玩具工場で働いている事務員。ひとつ年下。

***

昼休みに"就業時間が終わったら事務室に来て欲しい"となまえに言われたアカギは素直に会いに行くと一人で待っている彼女に声を掛けた。

「わざわざ呼び出してごめんなさい。アカギさんに渡したい物があって」
「…何これ」
「今日は何の日か知ってますか?バレンタインデーです」
「ふーん…じゃあさ、今すぐお返ししたいんだけど」
「え?いや、別にそんな気を遣わないで下さい。しかも今すぐって…」

定時を過ぎた事務室には二人きり

他の事務員もとっくに帰ってしまって誰も居ない。何か不穏な空気を感じたなまえはこの静寂に耐えきれず「か、帰ります」と鞄を掴んで急いで帰ろうとした。けれど、その手を遮るように伸びた腕が彼女の動きを止める。

「ククク…遠慮すんなよ」
「遠慮なんてしてません、から」

じりじりと壁際まで追い詰められて、逃げられない

「チョコレートのお返し」
「や、待っ」

所謂"壁ドン"状態で見つめ合う二人の距離が一気に近づき、恥ずかしさに耐えられなくなったなまえは思わずぎゅっと目を閉じた。

ちゅ

「フフ…じゃ、また明日」
「……………………」

何も無かったようにさらりと挨拶をして帰っていくアカギ。彼が居なくなった後、なまえは一瞬だけ触れた唇の感触を思い出して声にならない悲鳴を上げた。