▼ 溢れ出す(神域)
「赤木さん、だいぶ髪が伸びましたね」
「そうだなあ。鬱陶しいから床屋にでも行くかな」
「…私が切ってあげますよ」
「なまえが?おいおい大丈夫なのか」
「任せて下さい。いつも通り素敵に仕上げますから」

洗面台に椅子を置くとスーツを脱いで素直に座る赤木の首にタオルをかける。その上からカットクロスとネックシャッターを巻いて準備万端整った。

「何だ、随分用意がいいな」
「ふふふ。美容師さんみたいでしょ?」

白髪を指で梳いて撫でる。光に反射してキラキラと輝く白銀の束を一掴み取ってハサミを入れようとしたけれど

「…なまえどうした」
「ごめんなさい…目に、ゴミが入っちゃって…」

泣いたらダメだ

そう思っても溢れる涙を止める事が出来ない。急に泣き出したら心配させてしまうのに

「今日はやめとくか」

優しく肩を撫でてなまえを抱き寄せると、何も言わず黙ったまま側に居た赤木には彼女が泣いた理由はわからない。

『赤木さん、たまには私じゃなくて美容室に行ってみたらどうですか?』
『床屋か?』
『あ、まあ、そうですね、床屋さんに』
『なまえに切ってもらうのがいいんだよ』

"お前の優しい手が好きなんだ"

「もう大丈夫です。じゃあ、とびきりの男前に仕上げますからね!」
「おう。頼むぜ」

その感触を確かめるように白髪を指で梳いて優しく撫でると赤木の柔らかな髪が指先からさらりと流れてなまえの胸を熱くさせる。込み上げる想いに気づかぬふりをして、キラキラと輝く白銀の束をひとつ掴み取ると緩やかにハサミを入れた。