▼ 別れる(神域)
お互い大人だから、何も言わずともわかる
そう思っていたけれど

「なまえ、少し…話があるんだ」
「赤木さん?どうしたんです、急に…」

ふらり、ふらり

高級な一張羅のスーツと手荷物ひとつで気が向けばなまえに逢いに来る赤木が煙草のけむりを燻らせながら訪れたのはつい先日の事。

「来て早々アレだけどよ…明日、岩手に行くんだわ」
「まあ。それはまた忙しいですこと。で、いつ戻る予定なんですか」
「……もう、戻らねえ。だからお前さんに挨拶しときたくて、さ」
「それはつまり"お別れ"と?」
「ああ。ずいぶん世話になった」

こんなかたちで終わらせるなんて、赤木らしいとなまえは笑う。確かに恋人と呼ぶには頼りない関係だったかもしれない。でもそれでいいと思った。彼を縛る事はきっと誰にも出来やしないから。

「寂しくなりますね」
「そうだな…」

遠くを見つめる赤木はどこか愁いを漂わせていて何故か胸が苦しくなった。どうしたんだろう、いつもと変わらないはずなのに。

「赤木さん」

最後にひとつ、噛み締めるように
愛しい貴方の名前を呼ばせて。