▼ 惹かれる(しげる)
夕飯の支度をするなまえの後ろ姿を見つめた。野菜を刻む包丁の小気味良い音がトントンと耳を擽る。

「なに作ってんの」
「しげるくん」

腰に抱き着いて覗き込む少年に思わず笑みが零れたなまえは優しい眼差しで、そっとしげるの頭を撫でながら

「何を作ってるでしょうか?」
「なまえさん、質問に質問で返さないで」

ごめんね、と柔らかな笑顔で謝る彼女の性格は明るくてお人好し。物静かではないけれど喧しくもなく、"美人"というより"可愛い"が似合うなまえの事が好きだ。優しく頭を撫でる手のひらも、眠れない夜に抱き締めてくれる温もりも、穏やかに名前を呼ぶ声も全部、全部。

「好きだから」

「本当?肉じゃが、好きで良かった」
「違うよ。そうじゃなくて」

呆れた様子で小さな溜め息をつくしげるはわざとなのか本気なのかわからないその言葉に、彼女らしいなと笑った。

なまえさんが好きだって事、気づいてよ。