※最終話

事故後、傷も癒え退院した彼女との新しい生活が始まった。

***

あれから半年。まだ戻る事の無い記憶に最初は戸惑っていたなまえも思い出す事より新しい記憶を重ねる日々を楽しむようになっていった。

「ねえアカギさん、私、そろそろお買い物くらいなら行かれますよ?」

「ああ…でもまだ心配だからさ、俺が行く。だからなまえは家に居てくれれば良いんだ」

「そう、ですか…わかりました」

少しだけつまらなそうな顔をした彼女を優しく抱き寄せて耳元で囁いた。

「また車に跳ねられたら困るし…何よりこんな可愛い奥さんを他の男に見せたくないって俺の妬きもち、わかってよ」

溜め息混じりに呟いたら耳まで真っ赤に染めてうつ向いてしまったなまえの初々しさは半年経った今も変わっていない。夫婦だと刷り込ませて何の疑問も持たずにこの関係を続けてきた彼女だけれど、この先記憶が戻って何もかもを思い出した時…もしかしたら自分から離れて行ってしまうのではないかという一抹の不安がアカギの頭を過る。

「そんなのは絶対に許さない。俺だけのなまえなんだから」
「アカギ、さん…?」
「ずっと俺の傍に居るって約束、守ってよ」
「え、あ、はい…」

抱き締めるアカギの温もりと優しさに安堵したなまえはゆっくりと瞳を閉じる。彼から惜しみ無く与えられる恐ろしい程の深い愛に言い知れぬ不安を感じながらも決してこの手は離すまい、と心に誓うのだった。

この愛がきみを殺すまで

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