甘ったるい沈黙



【この熱は誰の所為?】の続き

***

一線を越えてしまえば後は同じだ。きっと。

酔ってなまえを抱いたあの日から頻りに身体を求めるようになったアカギは、まだこの行為に不馴れな彼女を毎晩可愛いがっていた。自分でも驚く程、なまえをひどく欲している。

「もう痛くないだろ」

風呂上がりのまだ少し湿った髪を優しく撫でて肩を抱き寄せる。

「うん…大丈夫。でも、今日は…」

さすがにこうも毎日となると些か気乗りしないのか言葉を濁す彼女の返事に

「嫌ならいい。他の女探すから」

わざと素っ気なく言い放つと、背中を向けて煙草に火をつける。黙ったまま深く吸い込んで静かに吐き出した煙が薄暗い部屋にふわりと浮かんで消えた。

「…や、じゃない。だって、アカギさんが…好き」
「じゃあ言って。どうして欲しいか」
「ん…今日も、いっぱい…可愛がって」
「ククク。良く出来ました」

ぎゅっと抱き締められると少し低めの体温がじわりと心に沁みる。それは、独りぼっちだった私をまるごと包み込んでくれるように温かい。頭を撫でる彼の手のひらが優しくて好き。啄むような口づけも、耳元で囁く甘い言葉も。

「何だか調子狂うな」
「どうして」
「いや、柄じゃないだろ。こんな、俺」
「でもアカギさんは…優しいよ?」
「クク…そうでもないさ」

ふ、とアカギは思った。身寄りも無く、行く宛の無いなまえに衣食住を与える対価として夜毎相手をさせているのは優しさとは言わない。それは彼女もわかっている筈だ。

「なまえ、こっち向いて」

吐息が交わる距離まで近づいたら瞬きを数回。恥ずかしそうに瞳を閉じてその先を待つなまえの頬が仄かに赤く染まる。アカギのとろけるような甘い口づけに、どことなく愛しさを感じた。




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