触れるための口実をください
「好きだ」
「あの、私…何て言えば…」
そんなつもりは無かった。
けれど膨れ上がる想いは日を追う毎に抑えきれなくなって、とうとう胸の内で堪えきれず破裂してしまった。
「なまえ、ごめん。困らせるつもりは」
「…いいよ。本当は少し、嬉しいの」
高層マンションに住まう彼女の名はみょうじ なまえ。最上階に位置する広い部屋はなまえの為にと銀二が買い与えた物だ。家具も服も装飾品もすべて、愛しい彼女の為に。
「でも、私には銀さんが」
「知ってる。だから…俺の"独り言"だって思ってくれればいい」
なんて滑稽な強がりを言ってみてもバレバレ。だったら言わなきゃ良いだけの事をわざわざなまえに告げたのは、心のどこかで期待してる所為だ。
「森田くんの真っ直ぐな気持ちは…嬉しいよ。私も好き…だから」
最近忙しい銀二がなまえを構ってあげられないとボヤいていたのを思い出す。甘えん坊な彼女はきっと寂しいに違いない。可哀想だから慰めてあげたい、なんて都合の良い言い訳だとわかっているけれど。
「私も"独り言"だよ?」
心地好い彼女の声が耳を擽る。こくりと頷いて身体を引き寄せると恥ずかしそうに胸に顔をうずめて甘えてくるなまえが堪らなく可愛いと思った。
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