愛が蝕むのは私かあなたか



※ひろゆき夢なのに可哀想。神域との三角関係?夢主に悪気はありません。

***

「はい、アーンして下さい」
「ん」

いつもの喫茶店に呼ばれて中に入ると隣同士に座る二人の姿。訝しげに名前を呼ぶと、よう、と手を上げて手招きする。意図が分からずに戸惑いながら近づくと嬉しそうにスプーンを口元へと運ぶ女、それを顔色ひとつ変えずに受け入れる、男。

「美味しいですか?」
「ん。まあまあだな」

目の前で繰り広げられる光景に居たたまれなくなったのは、僕だ。

『恋人同士みたいな事がしたい、なんて可愛いだろ?』

世間話のついでみたいにさらりと流す話にはなまえさんの名前。きっと赤木さんには大したこと無い事なんだろうけど、僕にとっては穏やかじゃいられない。

この前"あんな事"したばかりなのに

「まるで介護されてるみたいですね」

ちくりと刺さった胸の棘が言葉まで鋭くさせる。どうしてこんな気持ちになるのだろうか。だって仕方無いじゃないか、いつの間にかこんなに

「何だよ、ひろもして欲しいのか」
「はっ!?べ、別にそんなんじゃ」
「しげるさん、はい、もう一回」

鈴を転がした様な声で可愛くおねだりするなまえさんがいつもより艶やかに見えるのは、赤木さんに恋をしているから。

「…いつから名前で呼ぶ仲になったんですか」
「今日だけよ。一日限定の"恋人ごっこ"なの」
「この前の賭けで負けたんだよ。だからなまえのお願いを聞いてやってんだ」
「…へぇ、赤木さんが賭け事で負けるなんて。わざと負けたんでしょう?」
「ハハ…いや本当にわからねえ勝負だったんだ」
「どんな勝負したんです」

「ひろゆきくんが私の事、好きか嫌いか」
「え…」

それはつまり

「こないだ言ってくれたよね?私の事"好きだ"って」

「確かに言いました、けどっ」
「俺は違う方に賭けてたんだ…まあ、今更関係ねえかそんなモンは」

面倒だとばかりに小さく呟くと、煙草の煙を燻らせる姿に戸惑いとか苛立ちとか況してや嫉妬なんて感情は微塵も感じられない。

「じゃあ、賭けで僕の事…誘ったんですか」
「赤木さんが『ひろはお前の誘いにゃ乗らないだろうよ』って言うから」

違う。赤木さんは敢えて選んだんだ

「僕がなまえさんの事を好きなのを知ってて」

二人で嗤っていたのかと思うと腹が立った。だってそうじゃないか。僕の気持ちなんかお構い無しで

「なまえさんなんか…嫌いです」
「私はひろゆきくんの事、好きだよ」

「でも赤木さんが一番好き。大好き。愛してる」

とびきりの甘やかな声色が耳に残る。優しくて穏やかな、それでいて何処か切なくて胸が熱くなるような

「…やっぱり好きです」

たとえ僕の想いが届かなくてもいい
だって想う事は許されているのだから




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