蜜柑色


トン、と地面を蹴れば宙に浮く身体
魔法ってやっぱりすごいな
箒を一撫ですればすうっと湖へと向かう
風が気持ち良くて目を細める
でも目を細めていたのは風のせいだけじゃない

それは綺麗な夕日があったから
金色のような蜜柑色のようなそんな色
目一杯の景色に何故か頬を伝うなにか

『あ、れ?悲しいわけじゃないのに』

止まらない
溢れ出す涙と共に隠していた気持ちも溢れ出す

大好きな貴方
他の女の子とお付き合いを始めたと噂の貴方を想う

いつも隣にいて笑いあうのは私だと思っていた
一番貴方と仲がいいのも私だと思っていた
だけどすべて私の思い込みだったらしい

『もっと可愛かったら、もっと…』

もっとあの子より優れていれば
貴方は私を選んでくれますか?

そんな言葉達をぐっと胸に押し殺す
夕日に染まる湖が何だか悲しそうに見えた
一番酷い顔をしているのは私なのに
でも夕日を見つめていれば心に揺らがない物があった

『私は、ずっと好きなんだろうなぁ』

そう夕日に向かって言い終わった瞬間に
聞き慣れた大好きな声がした

「なに黄昏れてんの」

いつもいつも変なタイミングで私の前に現れるこいつ
泣いてるときとか悔しいときとかそんな時ばっかり来る

私は後ろを振り返らないで声を発する

『…うっさいよジョージ』

「はいはい。…ユキ泣いてたのか?」

そんな優しい声で私の名前を呼ばないで
すがりたくなっちゃうじゃないの馬鹿

『泣いてなんか、ない』

「…嘘つきだな」

『違うもん』

「あっそ…。何で泣いてんのかは知らないけど
俺はお前の味方だからな
……だから、いつでも相談しろよ」

彼は優しく私の頭をぽんぽんと撫でた
嗚呼もうまた涙が出てきた
せっかく止まったのに何すんのよ

『…っ…ひくっ…、…っ』

「ユキはいつからこんなに泣き虫になったんだ?」

『…っうる、さいなぁ!』

「あぁ、ごめんごめん。」

『…ジョージィ…』

「ん?何?」

『…ありがとう』

必死に涙を止めようとするけれど
やっぱり止まらない
こいつが優しすぎるせいだ
ついつい甘えてしまうじゃないか


「っあー!!もう我慢できねぇ!!」

そうジョージが叫んで私の箒を掴んで地面へと向かう

『ちょっ、ジョージ!!』

「うっせー」

地に足がつけばすぐさまジョージに抱きしめられる

『なっ、やめ』

「やめねー」

『だめだよっ…彼女さんに見られでもしたら、』

「お前それ本気で言ってんの?」

『だってジョージ彼女でき、んむっ!!』

後頭部をしっかりと支えられ深いキスをされた
いきなりで驚いた
だけど決して嫌ではなくむしろ嬉しいくらいだった
それが彼の気まぐれであったとしても

『っ…はぁ、は、はぁ…』

「ユキ好きな奴いんの?誰?」

脅すような問い方に少しだけ後ずさる

「言えよ、じゃなきゃまたキスするぞ」

再び顎を上に向かせられ唇が近づいてくる

『…ジョージ』

「は?」

『ジョージ、だよ。…好きな人』

目の前にはぽかんとしたジョージ
思わず吹き出せば笑うなと目を隠された

『何すんのよ!』

「まじで?俺今顔赤いから見ないで
つか見せねーから」

『余計に見たいんだけど』

「ダメ、絶対」

お互いに笑い合えばどこか気持ちがすっきりした
気持ちを吐き出したからかは定かではないけれど

「…俺も」

『へ?』

「俺もユキが好きだ!」

手が離され次に私の背中に回った
抱きしめられてると認識するのに少し時間がかかった
それと同時に言葉の意味も理解できてきて
今日三度目の涙だ

だけど三度目の涙は夕日に染まった蜜柑色の貴方が止めてくれた
それはそれは温かいキスをして


















(彼女が出来たのは本当に噂?)
(あぁ。実際の彼女はお前だろ)
(…!…へへ)
(何にやけてんだか)
(嬉しいんだもんジョージとこうなれて)
(俺もだ!めちゃくちゃ嬉しい)


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bkm
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