滲む視界に祈りを浮かべて


雨粒の落ちる音で目が覚めた
その雨は今の私にはぴったりで
余計に気持ちが沈んだ

着替えを終えて窓から庭を見る
綺麗な薔薇
雨水を花びらに乗せ粒をぽとりぽとりと落とす姿は
どこか悲しげでヴォルさんの顔が脳裏を過ぎった
嗚呼もうあの薔薇に触れることさえも
できなくなってしまうのか

コンッコンッコンッ
扉が静かに叩かれる

「優季様、我が君がお呼びです」

『今、行きます』

扉を開ければベラさん
久しぶりに見たけれど少し顔色が悪いような気がした

『ベラさん、』

「何でしょう?」

『ヴォルさんのことよろしくお願いします』

「…え」

小さく戸惑いの声
ヴォルさんはベラさんやルシウスさんにも
言ってなかったのだろうか

『私ホグワーツに帰るんです』

「それを我が君はっ…」

『…彼が言ってきたんですよ、帰してやるって』

「優季様……」

どうか泣かないでくださいと
頬を綺麗な刺繍の入った布で拭われる
泣いてなんかいないのにと
自分の頬に手をやれば湿っていることに気がついた

『あ、れ?私……どうして…っ?
むしろ嬉しいことなのに…!』

その後私はベラさんに抱き着いて
思いきり子供に返ったように泣いた





落ち着きを取り戻してから
彼の部屋へと入る

「遅かったな」

『ごめんなさい…』

「優季、こっちに来い」

その言葉に黙って従う
上を見上げれば赤い目が私をしっかりと捉える
私に合わせて彼が腰を少し屈めたから
私と目線が同じになる

「泣いたのか」

目が赤いとそっと触れられる

『ヴォルさん、何か、隠してますよね』

「…何も隠してなどいない」

『嘘。ヴォルさんは気がつかないかもしれないけれど
私といるとき何か諦めたような、思い詰めたような
そんな悲しそうな顔をしてるんですよ?』

「………」

『お願いです。私を帰す前にそれだけ、教えてください』

私は懇願の眼差しを彼に送る
それを逸らさず受け止めるヴォルさん

「……………お前と同じだからだ」

『えっ?』

「幸せ、になって欲しいと思ったからだ」

彼は私に諭すようにゆっくりと話す
あぁ、そうか
私は彼の考えていることが分かった気がした
彼は本物、を知ったんだ

『…私には恋人がいます。とても大切な人です』

「………知っている、」

『その人に愛しさで敵う人はいないでしょう。
だけど、だけどです
貴方に幸せになって欲しいと思う気持ちは
その恋人と同じ位なんですよ』

「……、」

『ヴォルさんの気持ちには応えられないけれど
私はヴォルさんが大好きですよ!』

私は彼に抱き着いた
彼も私を抱きしめてくれた
それは優しく抱きしめてくれるから
とても闇の帝王だなんて思えない

「トム」

『?』

「トムだ…私の、名前だ」

『!!…トム、大好き!』

そういえば彼の抱きしめる腕が強くなった気がした
そしてぐらりと歪む視界

目を開ければそこにはホグワーツがある
私、帰ってきたんだ

「幸せに、なれ」

『トムも、約束だからね!』

小さく彼は笑うと姿現しでいなくなった
悲しい、寂しい気持ちが胸に落ちたが
幸せになれとあの彼が言ったのだ
その人と交わした約束を破れるわけがない
だから私は笑った





















(手を離した後悔はない。だが違う後悔ならある)
(お前を幸せにするのが私ではないことだ)
(どうか幸せになって(くれ・ください))


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bkm
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