没ネタ集
▼外道4
04/24 19:14(0



『甘えてみなよ』

 そう堺さんに言われた。期限があるならば、拒絶ではなく苦痛の緩和の方に注力してみてはどうか、という主旨だ。会長が罰されておしまいになればいいのに、勧善懲悪は通用しない。

 呼び出しを受けた。生徒会室に来いと言う内容で気がずん、と重くなる。重くなった足を引きずって、生徒会室に行く。

 生徒会室は窓が開けてあり、秋の風が入り込んでいた。十月の昼はまだ冷え込んでおらず、ちょうど良い風が吹いている。

「用は」
「座れ」

 会長はソファーを示す。逆らえる雰囲気でもないので、大人しく座る。何をされるのかと身構えていると、会長が俺の膝を枕にして寝転んだ。

「寝るから、少ししたら起こせ」
「お前、俺を脅してるの忘れていないか? 普通気を許さないだろ」
「何をするつもりだ?」

 目を閉じていた会長が目を開けた。目が合う。そう聞き返される可能性を考慮にいれておらず、答えに窮した。どうしよう。

「スマホのデータ消す」
「頑張れ」

 会長は瞼を下ろした。会長の頭が膝に乗っている状態では会長に気づかれず動く事は難しい。会長の恥ずかしい姿でも撮ろうかとスマホを取り出したが、見目良い男の寝顔は恥でもなんでもない。死人のように眠っていて寝相も悪くない。
 手持ち無沙汰ですることがない。脇に置いた鞄を漁って、教科書を取り出す。今日の授業の範囲を開いて読み始めた。

 範囲を一通り読み終えた。壁に掛かっている時計をみると、三十分ほど経過している。そういえば『少ししたら起こせ』の少しとはいつなのだろうか。会長の様子を見ているとまだ眠っている。
 綺麗な男だと思う。目を閉じて表情を削ぎ落としていると、綺麗さがより際立つ。前髪に触れる。いくらか硬い髪だけどもさらさらと指の間を抜けていく。
 呼び出しもこの程度なら別にいい。会長の机に目を向けると書類が多少積み上がっている。俺を呼び出す時間を書類処理にあてればいいと思うけれど、それを言ったところで無駄だろう。

「お邪魔だった?」

 上から、声が降る。顔を上げると会計がいた。姿を見て、体が強ばる。悟られないようににらみ付けた。

「なに」
「いや? 会長の愛人だと態度変わるねえ」
「変えてない」

 嫌みな奴だと思う。話を続けるのも億劫だけど、会長が寝ているので逃げられない。揺すって起こせば良いのだろうか。

「顔上げて」

 品定めするように、不躾な視線を送られた。前は会うと小突かれていたから、殴られないか肝が冷える。

「やっぱ平凡だね」

 評価を下す。散々言われてきた評価なので、特に傷つきもしない。けれど、評価を下した後も考えるついでにこちらを見てくる会計に心がざわめく。
 万が一、会計が俺に興味を持ったら?
 ないとは思う。思うけれど、玩具として会長に望まれている現状、会計が遊びで害してくる可能性はある。今は柳が好きみたいだけど、柳に一途という話は聞かないのだ。

「会長と付き合ってんの?」

 どう答えるのが正解なのだろうか。正解できなければ、遊ばれる気がする。獲物を狙う獣のような光が目に宿っていて、襲う前の会長と似た雰囲気だ。怖い。

「・・・・・・付き合ってる」
「思い上がるねえ」

 鼻で笑った。会長が起きてくれないだろうか。会計は膝をつき、目線の高さを俺に合わせてくる。

「関係ないだろ」
「この前、会長に抱かれてただろ」

 早く起きろ。会長の肩に触れて揺するけど、起きない。それなら頭をどけてデータを消しにいけばよかった。冷えた手で首を触ってやろうか。

「それが何」
「小動物ぽかったから、味が気になるんだよね」

 何故この学校の人は好みが似通ってるのか。柳はどうした。

「お前俺のこと嫌いだろ」
「もう嫌いじゃない」

 会長が膝の上で身じろいだ。視線を下に下げると会長がようやく起きた。上体を起こして何度か瞬きをしている。伸びをして、俺それから会計を視界に入れた。

「何」

 会長に寄る。会長次第では会計にも触れられるかもしれない。それは嫌だ。会長だけで十分だ。

「会長はそいつと付き合ってるの?」

 後ろから聞こえる声は怖い。まだ会長の方が安心できる。会長にアイコンタクトを取ると、ちらとこちらに目をやって会計の方を見た。

「これは俺の」


□■□


 会計を追い払うことに成功した。元々、忘れ物を取りに来ただけのようだ。
 会計の背を見送って、会長は俺の方を見た。

「お前変なのに気に入られるな」
「会長のせいだろ」

 会長のお気に入り認定されているから、俺の認知度が上がっている。その中から興味を引かれてこちらにくる。数が増えるのも道理だし、会長のお気に入りに手を出そうとするのは大体変な奴だろう。……お気に入りって言ってて嫌になる。

「素質があるんだろ」
「あってたまるか」

 そう? と聞いてくる。嫌な予感がして後ずさると、会長が距離を詰めてくる。狩りを楽しんでいるような邪悪さで俺をソファーの端まで追い詰めた。

「それは合意か」

 入り口の方を見上げると、副会長がいた。久しぶりに会った気がする。会長を腕で突っ張って退かして、距離を取った。首を振ると副会長はため息をつく。

「そうだ」
「だとしてもTPOを弁えろ」
「お前が空気読んでどこか行けば良いだろ」
「仕事がある」

 ソファーを通り過ぎて、副会長は仕事机に向かう。流石に副会長の前でどうにかする気はないようで、会長も仕事を始めた。呼び出しの用件は満たしただろうし、帰ろうかと腰を上げる。

「帰るのか」
「居てもすることないし」
「教室?」
「寮」
「授業は?」

 言い淀む。時計を見ればあと一限残っていることが知れた。けれど、会長に呼び出された後は戻りにくいのだ。お気に入りというのが浸透しているからか、ニヤニヤしてこっち見たり気まずそうにしていたりと教室が落ち着かない。名ばかり補佐の職権濫用な気もするけれど、他人に下卑た目で見られるのは苦痛だ。
 副会長も察したのか、会長の方に視線を注いだ。会長は知らぬ存ぜぬといった風で、無視している。

「授業に出ないならここに居ろ。サボりになる」

 そうなのか。頷きはしたが手持ち無沙汰で、副会長の方に寄る。

「何か手伝うことある?」
「会長の補佐だろう」
「初日に手伝わせることないって言っていたから」

 会長の様子を伺うとわりと忙しそうだ。でも俺を抱く暇があるんだよな。

「何かすることある?」
「ある」

 あるのか。椅子を持ってこいと言うので持ってくる。任されたのは、提出された書類の不備がないかチェックすることだ。会長職って意外に地味なこともやるんだなあと思いつつ、不備のあった書類を除けていく。終わる頃には終礼の時間も過ぎていた。
 帰ろうとすると会長も帰ると言うので一緒に帰る。ちらちらとこちらに視線が向けられるのが鬱陶しいが、会長が一瞥すると散っていく。

「夕飯は食堂?」
「そう」
「そっか」

 そういえば会長とあんまり喋る機会はない。呼び出されて抱かれてって感じだから、この時間は新鮮だ。ここは帰るべきか、一緒に食事をするべきか。迷ったが会長は俺にどうするか聞くことなく、去るタイミングを逃して一緒にご飯を食べた。

 会長の機嫌は悪くなさそうだ。今話すのもどうかと思ったが、今しかない。堺さんに言われた言葉を反芻して、下手、下手と心に念じながらお願いする。

「頻度を減らしてほしい。あと時間も放課後だけがいい」
「なんの」
「呼び出し」

 機嫌を損ねるかなと思ったけれど、そんな事はなかった。クラスメイトに変な目で見られること、体力的に辛いことを言い、機嫌が悪くならないように心を砕く。会長の様子をじっと確認するけれど、相変わらず何を考えているか分からない。

「希望は?」
「週三で限界」
「………対価は?」
「対価?」
「お願いを聞いてやるんだから、必要だろ」

 必要か? 

「何が欲しいんだ」

 会長は金持ちだ。暗い茶色の瞳は楽しげに揺らめいていて、考えていることが俺にとって良くないことなのは分かる。

「決まったら話す」
「それは週三で良いって事?」
「今は無条件で応じてやる。決まったらその時点でその条件を飲むか飲まないか決めればいい」

 なんで偉そうなんだろ。
 そう思うけど、呼び出しの回数を減らせたのは良かった。ほっと胸を撫で下ろした。


□■□


 会長は会長なのでファンが多い。

 気に入られて一週間を過ぎた頃から、呼び出しの手紙が入るようになった。無視をしていたけど。
 無視し続けて一月たった頃、しびれを切らしたのか倉庫に押し込められた。

 地球儀とか置かれているから社会科の資料室だろう。人数は三人。真ん中に綺麗な人がいて、おそらくこの人が氷川に狂っている人だ。目が違う。

「狡い」

 その言葉から自分が如何に氷川が好きかどうかとか語り、俺の容姿とか家柄を貶める。でも結局、氷川に抱かれていることが羨ましいと語る。宥めようとしても俺の話を全く聞かないし、背後の二人が怖い。逃げようとあたりを見回してみても窓がなく、入り口も一つだけ。拘束されてないのが幸いだ。多分逃げられないと思っているのだろう。
 どうにか脱出できないか考えているけれど、難しそうだ。スマホには会長の電話番号が入っている。電話さえ繋がれば、どうにかなる。気がする。

「そんなに具合がいいの?」

 ちょっと試してみてよとか言って狂った人は後ろの人に目配せする。後ろの人が前に来て、嫌な予感がして後ずさった。もうなりふり構っていられず、スマホを取り出して氷川に電話を掛けた。コール、して繋がる前にスマホを奪われた。セーフ、と言っているから繋がる前に切れたのだろう。キレられて頬を打たれた。

 一人に腕を掴まれる。嫌な感じが背筋に走った。手を後ろで縛られて、膝立ちにさせられると男の下半身が目の前にくる。その後ろで狂信者がくすくすと嫌な笑みを浮かべていた。

「会長のお気に入りにこんなことしてるのバレたら大変じゃないか?」
「浮気がバレたら大変だね」

 通じない。腕を動かす。動かない。目の前のズボンが下ろされてグロいものが来たら吐く自信がある。スラックスを下ろそうとしている奴を睨む。

「噛むぞ」

 目の前の人は困った顔をして狂信者の方を見た。彼はこっちに来ると、俺のに服越しに触れる。血の気が引いた。

「握り潰されたくないよね」

 冷えた言葉だ。怖い。しかしそれを口に含みたくない。あらゆる食べ物が不味くなりそう。

「会長にしたことない」

 本当にない。会長もしろって言わなかった。あの人は強姦はするけど、俺に奉仕を求めたことはない。

 ふるふると頭を振る。狂信者も俺に対する会長の執心の原因が知りたいようで、やってないことを無理にさせようとしなかった。

 しかし、終わりではなく、彼の手によって制服のボタンが開けられていく。シャツの下。会長がつけた跡が残っている。それを見ると狂信者は露骨に顔を歪めた。胸の噛み跡が気に障ったようで抓られる。

「痛い」
「うるさい」
 
 胸の先を指で引っ掻かれたり挟まれてぐにぐにされたりすると腰が揺れる。俺の顔を冷めた目で見て、狂信者は考え込む。

「とりあえず抱いてみて」

 気軽に言うな。男によって俺のスラックスが寛げられる。腕を押さえている男の手がじっとりとしていて気持ち悪い。欲情しているという風でなく、彼に頼まれて仕方なく手を出すという感じだ。

「楽しくないと思う」
「会長が何を気に入ったのか、見てみたい」

 そんな事で犯されてたまるものか。足を動かしてパンツを下ろされるのを防いでいる。焦れたのか、男が俺の足を押さえた。狂信者が下着に手を掛ける。

「何してる」

 会長が来た。施錠されていたドアが開いて、会長が俺の足を抑えていた人を蹴り飛ばした。ゴムまりのように飛び、その人は棚に背中を打ち付けた。うめき声をあげ、動かなくなる。

 機嫌が悪い。非常に悪い。怒っている。来てくれて安堵したけど、怖い。
 会長が離せ、と命じると男が手を離した。会長の側に寄って、衣服の乱れを直す。数ではあちらが有利なのに、場を会長が支配している。

「貴方が、こんなやつに執心しているから」
「何をしていたと聞いている」

 答えられるわけもなく、三人は項垂れた。狂信者がだって、とか言い訳をもごもごしているけれど会長は興味なさそうでうるさいと一言で終わらせる。
 すぐに風紀が来て、三人を連れて行った。


□■□


 風紀の事情聴取を簡単に終わらせて、授業に戻ろうとしたら会長に手を引かれた。低血圧の寝起きのような機嫌の悪さで、逃げたい。
 けれど逃げられず、会長の部屋に連れてこられた。何度か部屋に入っているから、結構見慣れている。会長は風呂の給湯ボタンを押すと、こちらに来た。
 お気に入りに手を出されそうになって苛ついているのだろう。どうすれば宥められるのか。
 考えて、隣に座る会長にくっついた。嫌がられないのがわかって、体を預ける。隣にいるの、よく考えたらあれらと同じことを完遂したんだよな。しかも写真撮って脅している。
 けれど。

「会長」
「何」
「ありがとう」

 助けてくれたのは事実だから、お礼を言っておく。あと怖いから機嫌を直してほしい。それか帰して欲しい。

「何もされてないから、機嫌直して」

 胸を触られたくらいだ。それでも酷いことをされたのだろうけど、それだけで済んだことが幸いで、助けられたこともあってかトラウマにはなっていない。

「着いて行くな」
「行ってない。呼び出しを無視してたら連れ込まれたんだよ」

 さっきより怒ってはいなくて、ほうっと胸を撫で下ろした。
 会長はまた考えだした。そうこうしている間にお風呂が沸く。アナウンスが流れると会長に手を引かれた。もう何度も見られているので恥ずかしいも何もなく、二人で向き合って湯船に浸かる。

「この前の取引あるだろ」
「週三のやつ?」
「そう。あれの内容を決めた」
「何」
「この部屋から出るな」

 何を言っているんだ。
 ぽかぽかしていたというのに、冷や水を被せられたようだ。筋肉が硬直するのを感じながら、会長を見た。
 授業は補佐権限でクリアしてしまうだろう。でも自由がなくなる。

「前に部屋の移動希望出していただろ。あれを通したから」
「出会って二ヶ月の人間を信頼しない方がいいよ」
「そういうこと言わなかったら、側に置かない」

 小物ってことがバレている。確かにそうなのだけど、言われると腹立つ。

「嫌だったら週五に戻せば」
「体力的に無理」

 ただでさえ憎まれているのだ。くたびれて弱った姿を晒したら今度こそ害されるだろう。

「俺のものが汚されるの嫌なんだよな」
「会長のじゃない」
「従属しているだろ」

 していない。そう返したいが弱味を握られているから、事実ではある。
 週五か軟禁。または写真をばらされる覚悟で、関係を破棄するか。あとは、脅すか。

「……脅されていると訴えるよ」

 声が震えている。会長の方は見ることができなくて、俯いた上で声も小さくなっているから説得力がない。

「訴えれば? お前の父親うちの会社で雇われているけど」

 会長の手が俺に触れる。強引に顔を上げさせられた。視界に会長が写り、駄目だと分かっているけど、目を逸らした。

「この醜聞は俺を害することはできるが、それ以上にお前の周りの生活を壊す」

 容易にそれは想像できた。だから、堺さんに言われた時もできる限り穏便に済ませようとしたのだ。けれど、軟禁は受け入れがたい。

「怖い」

 怖い。何をされるのか分からない。先が想像できない。
 逸らした顔を逸らさぬように向かされる。

「閉じ込めて、どうしたいんだ」
「これしかできないだけ」
「どうして」

 会長はその問いに答えてはくれなかった。





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