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「この艶のある美声を聞いたら誰だかすぐに判るだろうに…」
「こ、この根拠のない自信…」
「そして自分に酔った口調…」
エステルの嫌そうな顔に、笑ってはいるが微妙に引きつったヨシュアの顔。
シェラザードの表情も明らかな「苦笑」だ。
向こうにいる相手は随分と親しげに話しかけてくるのだが、当の三人からはあまり再会を喜んでいるかんじはしない。
むしろ、
「ひょっとしなくてもオリビエ?」
「ピンポーン(はぁと)」
「ピンポーンじゃねえよ(はぁと)」
「ヒッ」暴言と共に白目をむいたエステルにレフが飛び上がる。
他の二人も苦笑する以外ない。
むしろ、心底面倒くさそうだ。
エステルからは言いようのない敵意を感じる。
何かあったのか。
「ああ、こんなところで再会することができるとは…やはりボクとキミたちは運命で結ばれているらしいね」
顔は見えないが声で若い男なのだろうと分かる。
随分と癖のある人物のようだが…一体何者なのだろうか。
「あ、あんた…どうしてここにいるのよ?ボースに案内したハズでしょ!」
「しかも、こんな牢屋に閉じ込められてるなんて…一体、何をしでかしたわけ?」
エステルが唸り、シェラザードが続く。
「まーまー、そう一度に質問しないでくれたまえよ。これには海よりも深く山よりも高い事情があるのさ」
二人からの質問に、のんびりとした声が返ってくる。
バスローブ姿で夜景を見ながらワインでも飲んでいるときのように寛いでいそうだ。
…ここはホテルの一角でも高級マンションの一室でもない牢屋の中なのだが。
声が妙に優雅だから仕方がない。
「あっそ。だったら聞かない」
イラッとした声でエステルがそう言い切った。
「ていうか聞いちゃったらものすごく疲れそうな気がする」
「偶然だね、エステル…僕もそんな予感がするんだ」
「そういうわけで話してくれなくても結構よ。私たちの健康と美容のために」
追い討ちをかけるシェラザードにレフは微妙に笑っておく。
皆いくらなんでも相手に対して対応がぞんざいだとは感じたが、話がついていけないからここは大人しくしておいた方が良さそうだ。
「はっはっはっ。そんなに遠慮することはない。一部始終聞いてもらうよ…ボクの身に起きた悲劇的事件をね」
(聞いちゃいねぇ)
そしてこちらの反応などお構いなしに、彼は話し始めるのだった。
その「悲劇的事件」とやらを。
* * *
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