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「随分懐いてるな」
「ああ…今日は何か機嫌いいみたいでさ」
「これでか?」

アガットは己に対して牙を剥き出しにしている犬をもう一度まじまじと見つめた。
どう見ても不機嫌としか受け取れない様子に冷や汗を浮かべる。

「しかし何だこの牙といい爪といい…」

改良種は兎も角として、昨今のペットはもう少し可愛らしい姿形をしていると思ったが。
野生だからと言うだけで無視できない牙や爪の長さに眉を顰める。

「魔獣じゃねえのか。ただの犬にしてはやたらと…」
「ウゥウウウ」

漸くレフから退いた犬は、いよいよアガットに食ってかかろうとしていた。

「ちっ、愛想の無ぇ犬だな」
「いやお前が言うか。そっくりじゃん」
「あ…?」
「なー。犬アガット」

この犬に名前は付けてない。
ただ呼ぶときは「お前」とか「犬」とか。
ふざけて読んでみた名前がやけにしっくりくるから可笑しくて笑いが込み上げる。

「はぁ?」
「こいつの名前アガットにする。決めた。今決めた」

怪我をしていた彼を手当てして、走り回れるまで回復したのはカシウスやエステル、ヨシュアのお陰だ。
今よりも柔らかく真綿のような赤毛に顔を埋めて、可愛がっていたことは幼心に覚えている。
けれど野生の生き物を野に返すのは定めだとカシウスから教えられた。
大きくなった彼が再び現れたのは、それから暫く経ってからのこと。
小さな頃とは似ても似つかぬほど不貞不貞しくなった彼に驚いたし悲しくもなったけれど無事を喜んだのは確かだった。

「つうか、何勝手に人の名前、」
「いいじゃん。他人の気、しないだろ?同じ赤毛だし。大型犬だし」
「俺は人間なんだが」

勝手に自分の名前を犬に付けられて困惑気味のアガット。
犬の方のアガットはというと興味無さそうに欠伸している。

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