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それが、全く聞こえなかったのだ。
無心というより感情がブロックされている感じだった。
わからない。一体何に突き動かされていたというのだろうか。

レフは横たわった魔獣をもう一度見下ろす。
住処を脅かされでもしたのか、何故人の往来がある街道まで出て来てしまったのだろうか。

「…」

大型でも獣は獣。人を恐れる彼らは無闇に人里へ降りてくることは無いはずだ。
不可解な点は他にもある。
獣を切った手応えが、普段と妙に異なっていたことだ。
考え込むレフの様子を暫く見ていたアガットだったが、今は考えるより先にすることがある。

「兎に角、また何か別のモンが出てこねえうちにとっとと行くぞ」

レフの首根っこを引っ張るようにして歩き出し、街道を進む。

「あ、あぁ……行こうか。アリス、ルイス」
「おにーさん、ほんとにだいじょうぶかよ?」
「おかおまっさおだよ」

「大丈夫だよ。急ごう」

職務を思い出したレフも、言われるまま双子に急ぐよう促した。
一歩一歩、地を踏みしめる。
開けた道へ差し掛かると、草むらから顔を出した毒蛇に睨まれた。

「…」
「……」

魔獣を確認し、安全なルートを指示する以外に話すことはない。
会話など弾む筈が無く、無言の状態が続いた。

きっと自分なら持ち上げるのも難しいだろう大剣を操る目の前の男。
レフはその背をじっと見つめる。

全てを氷へ変えてしまうほどの冷気など ものともしない。
燃えるような髪。
猛々しい紅蓮の獣。
動けない己の前に立ち、激昂した魔獣に向かう姿を見ているだけで心臓まで燃やされているような気分だった。

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