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ミルヒ街道から関所を挟んだ向こう側はボースへと繋ぐ東ボース街道に続く。
街道を少し進んだ所で、北へ伸びる分かれ道があった。
その先は霧降り峡谷。谷から谷へ反響して獣の唸り声が街道を歩くレフたちにも聞こえてきた。
「…近いな」
低く呟いたアガットの声に肝が冷える。
「峡谷の魔獣が街道に出てくることってあるの?」
レフの両隣には「きゃっきゃ」とはしゃいでチョロチョロ動き回り、すぐ離れそうになる子供二人。
二人の腕を掴み、レフは若干震えた声で赤毛の正遊撃士を見上げた。
「まぁ、無ぇことは無ぇな」
レフを一瞥し、直ぐに前に向き直った赤毛は何でも無いことのように頷く。
「ジャイアントフットなんかは街道側に近いとこにも生息してるようだし」
「だ、大崩壊以前の大型魔獣じゃん!そんなのが彷徨いてるとこを子供だけで?全くお前らは…」
「いいじゃない。べつに」
「それに、まじゅうもかわいいよな。けっこう」
「か、かわいいってなぁ…」
信じられない。そういう危ない性格の友人には一人心当たりがあるが。
小さな頃から物怖じしない性格で、魔獣だらけのミストヴァルドを駆け回っていた彼女。
必然的にお目付役になっていた彼が、不安げに見守っていたのを思い出す。
「――ォオオオオオ…!」
びくん、レフが文字通り飛び上がった。
前を行くアガットも飛び上がりはしないものの、神妙な面持ちで辺りへの警戒を強くする。
「で、出て来たりしねぇよな?」
二人の手を握るレフの手に無意識に力がこもった。
小さな魔獣なら街道にも居るが、あまり近寄ったり刺激しなければ大人しい。
大型のものも此方が敵意を向けなければ理由もなく襲って来ることはないのだが、大型と聞くとどうしても身構えてしまう。
「だっせー。こえーの?」
「だっせー。ゆうげきしのくせに」
「う、煩いな。しょうがないだろ、まだ成り立てなんだから」
子供二人に図星を指され、レフはぐっと言葉に詰まるが直ぐに開き直った。
怖いのだから仕方がない。
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