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「何もしねえよ、ああ面倒臭ぇな」

頭をがしがし掻いて至極面倒くさそうに言う赤毛にレフもどうしたものかと困り果てた。
失礼だが確かにこの「こわいおじさん」じゃどこか別の国にでも連れて行かれそうな気分になるのはわかる。

ギラギラとした双眼には一目で気圧されるものがあるし、何より人相が悪すぎる。
子供相手に、もう少し丸くなれないものか。

「おい新入り、ついでだ。お前も来い」
「へ」

来い、と言われて思考が停止する。

「いや、でも…」
「おら、通行証」

投げて寄越されたものに目が点になった。

「な…何で?」
「いっしょにボースまできてくれるの?」
「よかったぁ…おにーさんもいっしょで」

首根っこを掴む勢いでボース側へと引きずられていく。
レフの服を掴んでニコニコとついてくる二人はご満悦だ。

二人のことは心配だったから結果的には良かった…のか?

「おい、どういうことだよアンタ、いつの間に…!」
「サイトの都合上だ」
「おじさん…裏の話は禁止だよ」
「おじさん言うな、ガキ」

そうして、ぎゃんぎゃん吠えるレフと、ちょろちょろ動き回る子供二人を連れ、ボースまで出発した赤毛の男アガット・クロスナー。
毎年行っている「里帰り」をしに出向いただけだというのに、何故子守などする結果になったのだろうか。

「おいガキ、名前何つったか」
「レフ・レグルスだよおじさん」
「しつけえぞ」
「アンタもな」

面倒だが、少しの間だけだ。
薄茶の髪の少年を一瞥し、前を向く。

その名を聞いて、不覚にも動揺した自分が情けない。
平気なふりをしても、本当は今だって収まっていない。
蘇るのは、焼ける街と、泣き叫ぶ声と、最期の笑顔と、聞き取れなかった言葉と、それから。

どうしようもなく苛々した。
怒りに変えた別の感情を仕舞いこんだ蓋が開きかけるのを押し止める。
あんな思いは、もうしたくない。
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