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sora no kiseki

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「ねえ」

耳元に寄せた俺の唇が、僅かに彼女の髪に触れた。
びく、その肩が小さく揺れる。

「なんですか」

ああ。可愛いな。

ニヤついてるのを彼女に見られたら、今以上に機嫌を悪くさせることは分かっているのに。
無意識に唇が緩んだのを直すことすら忘れて、俺は体勢を崩さない。

木陰の中、誰かに見つかったらどうしようか?
逸らされた目を追いかけて、挑発的に視線を投げかける。

「だから、俺のこと嫌いかって話…
ああ、言いにくければ、そうだな……苦手、とか」

更に、距離を詰めて…どこまでなら許されるかな。
こうやっていつもからかって、それが楽しくて…
別に君を試している、わけではないのだけれど。


「嫌う理由がどこに」

ややあってから、彼女が聞き返す。
キッと睨む目は怒ってても可愛らしくて、まるで子猫の威嚇だ。

「じゃあ鬱陶しい、だ」

俺は笑いを堪えながら返した。

「それも少し違いますね」

違う、を強めに言いきり、彼女は「私は呆れているだけです」とも付け足してくる。

「先輩はいい加減な人ですから」

それから視線をそらして、小さく呟いた。

「冷たぁい」

柔らかな黒髪をぐしゃぐしゃに掻き回しながら返すと「そうですか」とだけ返ってきた。
手を払いのけられないのが、妙に嬉しかった。
俺も、存外単純に出来ていると思う。









堅い木の幹に預けていた頭は、今は彼女の膝の上。
それから彼女の持つ分厚い本が俺の額に乗っている。

こっちが勝手にするなら、自分も勝手にするという意思表示なのだろうか。
可愛い仕返しだな、本当に。

「先輩、毎日逃げ回ってますけど…追いかける方の身にもなってください。他の先輩方もジルもハンス君も可哀想です」

説教混じりの言葉に唇を尖らせれば、訝しげに睨まれた。
賢そうな顔をしてみても、どうせ怒るくせに。


「さぁねえ、…わかんねえなァ。俺は、いい加減な人ですから」

俺は彼女の口調を真似て、ニイッと歯を見せてやる。

「真似しないでください」
「可愛いから?」
「またそうやってからかう」

俺、君に怒られるの、結構嫌いじゃないぞ。
怖いから言わないけど。


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