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Yu u ka i i chi re n

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「…っ」

その言葉に愕然とした。
がくりと落ちた肩に力が入らない。

「まぁ、そのほうが俺も好都合だけどな。悠名が来てから幸村妙に可愛いし…アイツはいい猿避けにもなる。あれほど都合のいい女、他にはいねえ」

なんだ…
なんだよ…それは。


「くくく、猿が幸村のこと以外で凹んでやがる。気色ワリィなぁ」

心底可笑しそうに腹を抱えて笑う男の声が左の耳から右へと、突き抜けていった。

自分は、今…何を考えている。
失格だ。忍びとして。


「まぁ少し頭を冷やすんだな。女に八つ当たりする男っつうのは、勝負に負けるより格好悪いぜ?」
 
「それと、」伊達の足元にまで転がっていた石を一つ拾い上げながら、伊達が言葉を続ける。

「こーゆうことは、smartじゃねえ。あとでちゃんと謝っておくんだな。年頃のladyに対して失礼だ」

何も言わない俺に近づいて、すっとそれを差し出す。

「オラ、…手ぇ出せよ。可愛くねぇな」

伊達は無理矢理その石を握らせる。
力の入らない俺の手のひらの中で、日の光を浴びた小さなそれがキラリと光った。
眩しさに、ぎゅっと片目を瞑る。

「ちゃんとソレ直して、メカ女に謝ってこい。じゃないと幸村が悲しむ」

別に俺は、幸村以外はどうでもいいんだけどな。

伊達は、最後にそう言い残して部屋を出ていった。



「は、……何、伊達にまで心配されてんの俺…」

俺が彼女に言おうとしたのは、意味は同じでも もう少し違ったものだった筈。
己が傷つけたものと「それ」を認識すれば、それは己の中でどす黒い毒となって浸食し続ける。
とても自分を保てるわけがない。

戦いなんて血と、生と死と、悲しみと…振り返れば もう動かない「かつて人だったもの」。
勝利した者に 残るのは、この体だけ。
 
死ななかった体だけが 今まで奪った命の重さに、気づかないふりをして、し続けて。
また誰かを傷つけて自分の身近なものだけを守っていく。

そうして戦う理由を主や大切な誰かに押し付けて自分を正当化するのだ。
生きる目的など、そんなものは生まれたときから決まっている、と。

だから人を殺してまでも、それを護らなければならない。

それを知らない彼女に俺は。
知らなくていい彼女に、俺は。



このまま彼女が「こちら側」へ入ってくるのは嫌だった。
それは彼女の中で、失いたくない何かを失なう理由にしか成り得ない。

だからこそ彼女は俺たちから最も遠い場所にいなければならない。
例えそれを、彼女が望んだとしても。

自分の意志で踏み越えて…その先に、何があるのか。
二度と、悠名の笑顔が見れなくなってしまうのではないか。

それが一番怖かったんじゃないのか…


 
他の理由は、全部後付けだ。



畳に散らばった石をかき集める。

選んだこの色は、優しさの色。
あの子の色だと思った。

一番、似合うと思ったから、俺は。



「はぁ、…どうしたらいいの、俺」


一人 呟いた声には、静寂の音が返ってきただけだった。





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11'05/16 再録

例のごとくマックで執筆しててAKB?の曲が流れてたせいか こんなのができました
僕は君しか愛せないんだーってやつ。
あれ、素直でいい曲だと思います。
うわあ佐助の心情とか超キモイ!←
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