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Yu u ka i i chi re n

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ぎしり、 畳が軋む。
見開かれた悠名の目が俺を捕らえる。
それは明らかに、俺を恐怖する目。

でもそれは一瞬で、「私を殺せるわけないくせに」という色に変わっていた。

そんな挑発、俺にしていいと思ってるの。
女が男に勝てると思ってるの。

「…っな、なに…?」

押し倒した体を畳に縫い付ける。
悠名の脚の間に体を入れて、抵抗する手は頭の上。
片手だけで手首を一纏めにして拘束した。

顔を近づけたとき ふわりと香るのは、さっきあげた菓子と、それから悠名の匂い。

「ゃ、…ちょっ…と…さす、け…!」

名前を呼ばれても止まらない。
そのまま うなじに唇を寄せる。

「ん…っ」

強く吸い上げると 悠名は小さく肩を震わせた。
か細く漏れた声と、強ばらせた体。
柔らかい肌に 体が疼く。
いけないとわかっているのに。
なにかが、壊れる。
このまま めちゃくちゃにしてやりたい。何もかも。
震える少女の体に、触れた。

「や…だ、やだ!夏樹、夏樹せんぱい…っ」

知らないその名前に、怒りがこみ上げるのを感じた。
けれど頭に昇った熱は一気に引いていく。

「うぅ…っく……ひっく、…」

涙を流してカタカタ震える悠名に 押し寄せるのは、罪悪感。
ほんの少し、芽生えていた支配欲に頭がぐちゃぐちゃになりそうだった。

「俺は、」

こんな、こんなこと…

「…本当に殺せるよ。命令ならね」

あってはならない。

「これで満足?俺も お遊びに付き合ってる暇はないんだけど」

主だけのために動かさなくてはいけないこの感情は。
他のもののためには要らないのだから。

「幸村を守るためだけに俺はいる。俺の生きる理由はそれだけだ」

ちゃら、と首元の金具が鳴った。
桃色の小さなそれを指で弄ぶ。
 
悠名の白い肌と、浮き出た鎖骨に目眩がした。
ああ、だめだ。これ以上は。

「悠名がいると、俺の判断が鈍るんだよ」

たいした力を込めたつもりは無かった。
それなのに金具は簡単に千切れ、石が畳に転がっていく。

「あ…」

悠名の目が揺れた。
ぼろ、と また新しい涙が零れ落ちる。

「言うことが聞けないなら、絶対に教えない。おとなしく部屋で本でも読んでなよ、姫様」

ぱたた、 目尻から伝ったそれは畳を濡らしていく。
じわじわと広がるそれは 俺の中にも鈍い痛みを残していく。

「あ、花嫁修業なら教えてあげてもいいけど。今の、みたいなね」

言った途端、ばちん、と頬に飛んできた平手打ち。
余韻がびりびりと耳を突き抜ける。

「佐助のっ…佐助のバカァ!死んじゃえ!」

うわぁあん、と泣き出す悠名の声は子供のそれで 酷く安堵する自分が居た。
泣きながら奥の大部屋へ駆けていった悠名を見送って、それから まだ痛みの残る頬に触れてみる。

組み敷いた時の、弱々しい肩からでは考えられない程の力で叩かれたそれは 想像よりは腫れていなかった。
 
本当に、容赦ない。
凄まじい音が出たから鼓膜まで破れるかと思った。

さすが、一度に三人も伸した女だ。

本当に。
きみは強いよ、悠名。

姑息な手で支配しようとした俺なんかより、ずっと強いよ。





「うっわーダセェな、猿」

一言放つだけで不快感を覚えさせるその声に目だけを向ければ、眼帯男がニヤリと口を歪めて戸に寄りかかっていた。

「死んじゃえって…本当に子供なんだから」
「さぁ?カラダは立派に成長してるモンだぜ?女っつうのは不思議なイキモノだからな」

別に伊達に話し掛けたわけではない。
自分があまりにも馬鹿馬鹿しくて笑えただけだ。

心底、笑えない冗談だと思う。
真田の為に仕える俺が、幾多の血を浴びてきた俺が、こんな…

いたいけな少女の笑顔を踏みにじるようなことをして、こんな背徳に酔っていて……赦されるとでも?

「お前、気づいてんのか。幸村より悠名優先してんの」

伊達はそう言って腑抜けた俺を鼻で笑う。
 
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