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Yu u ka i i chi re n

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昼飯を終えた後、お館様は重臣と大事なお話、それから町へ行ってしまった旦那と竜の旦那を見送ってから暫く、今日はもう大人しくしてるつもりなのかなと侮っていた そのときだった。
本日2度目の悠名の「お願い」が始まったのは。

「忍術は教えないよ。絶対だめ」
「じゃあ、喧嘩!喧嘩教えて」

火薬を詰める作業をする俺に詰め寄って、悠名は膝を立てて身を乗り出す。
無視、という方法があるのにそれができない自分がバカみたいだと思う。本当に。
 
奥州で、仮にも敵国で。
伊達と二人きりになるために俺の守りはいらないと旦那から無理なお願いをされたときと似ている。
あのときは参った。
諦めさせようと、嫌われるのを承知で伊達の悪口だとか、いろいろ言ったような気がする。

それでも相手は折れなくて、泣き出してしまって。
「一生のお願い」とまで言われて、結局折れたのは自分。
それでも何か遭ったときには、と肝を冷やしたものだ。

つまりはこの子に嫌われるのが怖いのだ。
認めたくはないけれど、多分。

「あのさ、強くなってどうするの」

自分の中で、自分でも気づかないうちに、悠名の存在はそれほどまでに大きくなっていたのだ。
 
「まさか本当に竜の旦那と戦う気なの?あっちは絶対本気にしてないよ」

手を止めて、悠名に向き直る。
ちゃんと話を聞いてくれる気になったのか、と悠名の口元が緩んだ。
…残念だけどそうじゃないんだよね。

「それはわかってる。そうじゃなくて、戦いたいの、自分の弱さと」

まっすぐな目は相変わらず。
これは、言っても聞かない目だ。

弱くなんかないよ、悠名は十分強い。
教えても、悠名は理解出来ないと思うけど。

「私は、このままじゃ嫌なんだよ」
「はいはい、ちょっとストップ」

何を覚悟しているのか、変な方向へ向かっている悠名の思考をストップさせる。

あのねぇ、と俺は溜息混じりに続けた。
 
「悠名は何もわかってないよ。武田の為に人を殺せるの?」

論点がずれてる、と思われるかもしれないけど。
戦うっていうのはそういうことにもつながる。

一度人を殺めたら、それに相当することをしてしまったら もう戻れない。
生まれたときからそれを強いられた俺達とは立場が違うんだから。

「強さは人を殺すためにあるんじゃないよ」

嫌だと駄々をこねるのかとそう思っていたのに、悠名の目は俺から逃げなかった。
全てをわかっていて、それでも覚悟に近い自分の意志を向けてくる。

「わかってないのは佐助のほうでしょ。幸村の為なら私だって殺せるわけ?」

胸元の石が揺れる。
桃色のそれは、自分の意志で彼女にあげたもの。

「佐助はいつも嘘ばっかだよ」

駄々をこねて、泣きベソをかいて 奥の大部屋に駆け込んで、お館様に告げ口してくれたほうが ずっと良かったのに。

悠名は、もう。


俺たちと 同じ世界を見たいと望んでしまっているのだ。


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