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Yu u ka i i chi re n

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「姫様どうか履き物を…裸足で外へ出られるなど」
「姫様!お返しくださいまし、その雑巾で何を…」

「だーから大丈夫だって!掃除くらい!」

…大丈夫じゃないから怒られてるんだよ 悠名。



* * *




「姫様っ…どうかおやめください。その様な…」
「私たちが叱られてしまいます…おやめください」

あーあ、何やってるの。
またお姉さんたち困らせて…
いくら旦那が好きにしろって言ってたって限度ってものがあるでしょ。

仮にも、お館様のご息女「悠名姫」なんだから。


どたどたどたどた!
ずしゃーっ

「あ、どいてどいて!」
「姫様ー!」

…すたたたたたたた!
ずしゃーっ

「姫さまぁ…はぁ、はぁ…なんて素早い…」
「いったいどこで習われたのかしら…」
「もう、こんなときに佐助様は何をしておられるのかしら」
「誰か、探してきて頂戴…はぁ、はぁ…」
「私たちには、とても、手に負えないわ…」

やたらと張り切って縁側の雑巾掛けをしているのは、異国からやってきた少女・藤堂悠名。
おろおろとそれを見守ったり追いかけてやめさせようとしているのは、「そろそろお昼の仕度をしたいのに新米姫の子守まですることになってしまった4人のお姉さん」たち。

気の毒だけど…それを見て、屋根の上で腹を抱えて笑っている俺様。
だって面白いんだもん。

「お姉さん、ワックスないの?ワックス」
「わっくす…?」
「えー無いの?ピカピカになるのに」

瓦に頬杖をついて、俺が見下ろす悠名の目は、無邪気そのもの。
少し伸びた前髪が鬱陶しそうだったから、今日当たり切ってあげようかな、とぼんやり考える。

「あー!カナヘビ!」
「姫様!そのような汚いものに触っては…!」
「可愛いじゃん、ほら、触る?」
「きゃぁああ!おやめください姫様!」

縁側下から覗いたトカゲを摘み上げて、今度はお姉さんを追い掛け回してる悠名は、本当に只の田舎娘。
こういうのを天真爛漫というのかな。
「姫」だなんて似つかわしくないね。

戦場で旦那に「頼む」と託された不思議なその子は、不思議なくらいに「普通の女子」だった。
悠名を武田に連れてきてから、時間ばかりが過ぎていく。
あの事件のときお館様が悠名を娘として迎えると言ったときは本当に驚いたけど。

丁重にお断りするつもりが「携帯」を人質に取られて「幸村に助けられた恩を忘れたか?」なんて言われてしまえば流石の悠名も断れる筈もなく…

悠名が来てお館様も旦那も本当に楽しそうだし。
でも一番驚いてるのは、俺自身も同じことを感じているということ。

「あー…佐助がいないから好き勝手出来て楽しいなぁ」
「そんなことおっしゃられて…あとで叱られますよ」
「大丈夫大丈夫!」
「もう、姫様ぁ…」

年の割に少し幼くて、それでも知らない国で一人という状況でも強くあろうとしていて、決して只の子供ではない、女子。

足をあんなに曝した格好はもうさせるつもりはない。
だいたい、目立つし…旦那は兎も角、俺だって目のやり場に困るし。
 
見慣れない格好は兎も角、初めは旦那のことを暗殺しに来た忍だと思って疑ってたんだけど、戦闘能力は極めて普通。いや、少しかじった程度かな。
兵に借り出される村の男三人を一人で伸したっていうのは只者じゃないし。
聞いたら、母親の勧めで稽古をつけられたことがあるらしいとのこと。
でもそれ以外は幸村の言うとおり「普通の女子」だ。

最初のあの晩、ずっと見張ってたけど布団の中で一人で泣いてたのは明らかに演技じゃないし。
旦那との話で、「戦のない平和な国」から来たってことはわかったし。清々しいまでの真っ直ぐなとことか突っ走るとこが旦那に似てて、なんか放っておけないのは確かだし。
真っ直ぐっていうか…バカとも言えるかな。
泣いたり笑ったり怒ったり、見てて飽きない。
首飾りと団子の件は兎も角、悔しいけどすっかりお館様に毒されてしまったみたいだ。
悠名を気に入ってないといえば嘘になる。
 
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