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Yu u ka i i chi re n

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「もう、あんまりバカバカ言わないでってば、私これでも英語の点はいいんだから。そんなに利口でもないけど、バカじゃないもん」

本日何回目かわからない「バカ」に、溜まりかねたのか悠名が口を尖らせる。
ふん、と小馬鹿にした顔で、陽名は悠名に向かって舌を出した。

べー。

負けじとやり返す悠名。


…いや、可愛いんだけど君たち。
あそこの門番じゃないけどお兄さんウッカリ可愛いとか思っちゃったじゃないか。
勘弁してよね二人とも。

 
「まぁなんでもいいわ。それにしても異国の人は、みんな悠名さんみたいな人ばかりなのかしら。忙(せわ)しない国なんでしょうね」
「そっかなぁ…まぁ、都会は人が沢山いて、確かに忙しないかもね。1秒も惜しいって感じでみんな仕事してるし、生活してるし…」
「あなたみたいな人ばかりの国なんて、私絶対に行きたくないわ」
「えー何でよう!」
「絶対嫌」

彼女は気づいているんだろうか。
いつの間にか「仲良く」なってしまっていることに。


そろそろ迎えに行こうとしていた、丁度その時だった。
数人が此方へ歩いて来る。
そのうちの一人に手を引かれているのは、幼い男子。

「あ…」

先日あの屋敷から連れ出した、「陽名の弟」だ。

「やれやれ、またですか…姫様も困ったお人だ。お互い苦労するね」
「まぁね」

彼女は強情だし、この子からの話じゃ要点が掴めない為、この子に会わせれば少しは話してくれるんじゃないかと思って連れてきたんだそうだ。

「今ならきっと話すよ。姫様のおかげで、あの子元気出たみたいだし」
 
「それは良かった。では、此方としても、そろそろ姫様をお連れしてもらいたいのですが…」
「わかってますって」

不安げに見上げる幼子を連れて、男が牢へ入っていく。

暫くして 悠名が出てきた。
案の定ブスッとした顔をしている。

「もー!聞いてよ佐助!弟って子が入ってきたら陽名ちゃんいきなり泣き出して、出てけバカ女!って言われて追い出された!」

ああ…だろうね。
容易に想像がつきますよ。

「なんなのー!可愛くないんだから!あれツンデレ?ツンデレなの?」
「つんでれって何?」
「あの子みたいな人のことをそー言うの。陽名ちゃんのあんな優しい顔…初めて見た。うー…だんだんムカついてきた!私にはあんな顔してくれないのに」

しょうがないじゃない。
身内には勝てないでしょ。

「明日文句言ってやれば」

苦笑混じりにそう返した俺に、悠名は首を振る。

「んーん。もう、大丈夫。もう行かない。牢から出れた陽名ちゃんに、ちゃんと友達として会いに行きたいから」
「そっか」

これで漸く…俺様もいつもの生活に戻れるってわけだ。
ああ、永かったなぁ。
 
本当に大変だったんだから。

旦那にも悠名にも、帰ったら色々文句言ってやろうかと考えていると、不意に悠名が「本当はね、」と口を開いた。

「私、死にたがってた陽名ちゃんに 幸村の守りたいものにあなたも入ってるんだよって言おうと思ってたの」

悠名は、そう呟いて足元の石ころを蹴飛ばす。

「だから、あなたは幸村の為にも小さな弟のためにも生きなきゃだめだよって」

転がったそれは、木の幹にぶつかって、草むらへと消えた。

「でも、必要なかった。やっぱり家族って凄いな。あの子を抱きしめた陽名ちゃんの姿は、あの子のたった一人のお姉さんだったから」

本当に全部吹っ切れた顔で、悠名が笑う。

「そーだね」



ま、それにしてもよくあそこまであの子を手懐けたものだよ。
本当に、凄い子だよ。君は。



「お疲れ様。姫様」
「ふふ…くるしゅうないっ」
「うん。俺様本当に苦しかったけどね」
「?なんで?」
「わかんなくていいよ…」


早く帰ろうか。

みんなが待ってるよ。
首をながーくしてさ。



 
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