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Yu u ka i i chi re n

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「もう暫くしたら、釈放されるって。良かったね。陽名ちゃん」
「さよなら、って言ったでしょう。どうして毎日毎日会いに来るのよ。あなた本当にバカな子ね」
「そっかな。あ、おばさんから鈍いって言われたけど…もしかして私KY?ごめん…」
「けーわい?…何なのそれ」


* * *



「もうすぐ見回りが来るからさっさと出て行ってほしいのだけれど。私、あなたに話すことなんて何も無いから」
 
あれから、悠名は毎日こっそり牢に来ている。
初めは無視を決め込んでいた彼女も悠名が熱心に通っていたこともあって 少しずつ話すようになって。
それが嬉しくて、昼夜問わず遊びに来てるうちに、見張りの門番兵ともすっかり仲良くなっているし。
つうか、門番も鼻の下伸ばしてないで仕事しろよお前…

外は俺に見張らせて、中で楽しくお喋りする悠名は、始終笑顔。
それだけでどうでも良くなってしまう俺もいい加減バカだと思う。
楽しんでもらえて嬉しいですよ姫様…でも何でかな。
目から心の汗が出てきてしまうのは…

「もう、出てけなんて、冷たいこと言わないでよ。あ、そうそう、この前も聞いたけど佐助のことどう思う?アーミーだし忍者だし、ちょっと変だけど優しいところもあるんだよ」

ああ、俺の話で盛り上がってくれるのは結構だけど、早く帰りませんか?
俺様にだって他にも色々やらなくちゃいけないことがあるんだよ。
それなのに旦那は旦那で悠名についてろって言うし…
 
俺様としては早く陽名さんが釈放されることを祈る毎日です。
旦那のことがあるから許す気はないけど、もうなんか色々どうでもよくなってるんで。

「ねえってばー。あ、わかった。照れてるんだ。陽名ちゃん可愛い」

格子に寄りかかって、悠名は陽名に話しかける。
陽名はうざったそうにため息をつくと、それはもう冷たい言葉を吐き棄てた。

「あのね、私はあなたが嫌いなの。本当に嫌いなの。大嫌いなの。あなたなんて、いなくなってしまえばいいのに」
「でも、私は陽名ちゃんが好きだよ。可愛くて…大人っぽくて…色っぽくて…えーとそれから…」

指折り数えながら、悠名は陽名の良いところをいくつも挙げていく。

「色っぽいって…経験がないからよ。お子様な悠名さん、幸村様に似てるところも…本当、大嫌い」

いつも通り全く懲りない悠名に出ていかせるのは諦めたらしい。
陽名はまた溜め息をついた。
 
でもまぁ、確かに俺もそう思う。
旦那と悠名、色々似てるとこあるんだよね。

「大嫌い?幸村が好きなのに?変なのー」
「だから、私はあなたが嫌いなの。今その話をしてるのでしょう。あなた私の話聞いてた?」
「聞いてるよ。でも、陽名ちゃん知ってる?嫌いの裏には好きがあるんだよ。一番悲しいのは陽名ちゃんに関心すら持たれないことだから… 嫌い でもいいよ。こーやって、腹を割って話せるなら」
「だから、嫌いなのよ…バカな子のくせに、そういうこと言えるんだもの」

陽名の口元は、心なしか笑っているようにも見える。
心を許すまでは行かなくても、少しずつ、彼女は変わり始めている。
旦那の思惑通り、事は順調に進み、悠名は陽名を変えていく。
そして救うことができるのだ。
近い未来に。必ず。

「そうだ、陽名ちゃん、今日のご飯何だった?私はね煮干しとイナゴの佃煮と鰹節丸かじりとー」

いや、だから悠名、猫じゃないんだから…陽名さんも呆れてるよ。


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